叔父の粗忽

 

・ふるさとの色降り來る国花苑

五月二日に長患いをしていた父のいとこが亡くなり、
葬儀が執り行われた。
都会に比べると、
田舎の儀礼は
まだ少し大掛かりなようで、
母は三日連続で手伝いにでかけた。
葬儀へは父と近所に住む叔父が出席。
父のいとこは叔父のいとこでもあるわけで。
当日、
父は礼服を着込み叔父を待っていた。
ほどなく黒の礼服に身を包んだ叔父が坂を下りてきた。
叔父の家までは歩いて二分とかからない。
玄関で靴を脱ぎ、
居間に上がった叔父いわく、
「これ。兄貴に似合うがとおもて…」
ふがふがと皺の寄った口で言った。
見ればネクタイピンなのだった。
黒のネクタイに合うものを父はちょうど探しているところだった。
わたしは叔父に尋ねた。
「父さんがらたのまれでいだのが?」
「なも。んでにゃよ」
叔父は、頼まれもしないのに、
機転をきかし、
父に似合うネクタイピンを持参したのだった。
近所に叔父が居てくれるおかげで、
農作業はもとより、
日々の暮らしにおいて
どれだけ助かっているかわからない。
今年の二月、
屋根の雪を下ろしていて梯子ごと投げ出され、
腰を強く打ったときも
病院まで父を運んでくれたのは叔父だった。
叔父は、
父のことを兄貴とよぶ。
兄貴、兄貴。
叔父が持参したネクタイピンは父によく似合っていた。
父も満足げだった。
父は叔父に礼を言った。
「なんもなんも」と叔父。
と、
「あっ!!!」
大きく開いた叔父の口が空洞だった。
ん!?
「歯、忘いだ!」
叔父は速攻家に戻る。
やがてふたたびやってきて、
「これで、えがべ」
ばっちり入った歯を見せ笑った叔父、
父と並んで家を出た。

・遠蛙聴きて眼を閉づ夜半かな  野衾