風景

 

・装丁のラフ出で皆と論じけり

眼が覚めてから
眠るまで
いや眠っているときも
解放されずに
いろんなことが
頭をめぐり
悩むほどのことはなくても
思い
思い
思います
馬のように只管翔り
猿のようにはしゃぐ
まるで
思いのほうがご主人で
恋の奴隷
ならいざ知らず
思いの奴隷で
手を見ないでも
ただじっとしている
ほらだんだんと
ウンコか
虫けらに

そうしていると
また別の
思いが不意にどこかからやってきて
そこに目を凝らしている
縛られている
いいじゃない
どうってことないじゃない
とりあえず
今しなければいけないことを
なんて
思う工夫もまた思いで
堂々巡りの
自浄其意には程遠く
目を閉じ
思いの風景を眺めやる
二二二二年二月二二日は来るのかな
今朝三時〇六分の思い

・初校出し天気予報の雪を知る  野衾

ことばと言葉

 

・水含むかまくら融けず耐えてをり

主体としてのからだ、
というと、
なんだが厳しいけれど、
頭の奴隷としてでなく
ということで、
まずからだがいきいき
生きてうごいたり、
はたらくということ。
からだの延長としてのことば、
というふうに
思ったり
考えたりするときの、ことば。
でも、
ことの、
ことがらの上澄みをとらえ、
あるいは
片影をイメージし、
揺れる葉の背後で事はただ沈黙している、
というふうに
思ったり
考えたりするときの、言葉。
ことばと言葉。
どちらも楽しく
生きて悲しくはずんでいる。

・泥濘をひよいと垣根に梅白し  野衾

ノドと小口

 

・朝三時二月の空の眠りかな

本を開いた中側の綴じの部分をノドといいます。
古い本だと
製本のときにかがった糸が見えます。
今はアジロといって、
ページを重ねた背の部分に刻みを付け、
そこにノリを入れて綴じますから、
あまりグッと開くと
本のページが離れることも間々あり。
反対に、
外側の部分を小口といいます。
本を読むには
ある一定の時間がかかり、
たとえば、
いま電車で読んでいる『昆虫記』など、
文庫で十冊ありますから、
全部読むのに半年から一年近く。
ということは、
目でも読みますが指でも
手のひらでも読むことになります。
なので、
遅読は体読、感読、味読でもあります。
本のノドを開いて指を挟むか、
はたまた
本をぐっと開いて両手で文庫本を持ち、
両手の中指で文庫本のノドを
外側から少し押し出すようにして支えます。
ページの小口は両手の親指で押さえ。
そうすると本になだらかなスロープができる。
本を読むということはまた、
指先でなだらかな斜面をつくり出し、
そこに刻まれた文字に
ゆっくり触れては下りてゆく、
またスロープを登って下りてくる、
登山かスキーに似ていないこともない。
登山が
登ることから始まるのに対し、
読書は下山から始まる
ところは違っていますが…。
ともかく、
本を読むのは、
目よりも指先の感覚がものを言い、
味わいを確かめながら進みます。
そこがなんと言っても
おいしく、
好きなところです。

・かまくらの融けて遥かの白き富士  野衾

トークイベント

 

・真つ二つ二月半ばとなりにけり

以前ここで日取りだけご案内した
ように記憶していますが、
ちらと、
してなかった気もするトークイベントの
開始時刻も含めての
詳細が決まりましたので、
ご案内いたします。

★3月1日午後2時45分~ 1時間ほど
★たけうま書房にて

これは、
黄金町にある映画館ジャック&ベティで
3月1日より上映される
『世界一美しい本を作る男 シュタイデルとの旅』
に合わせた企画で、
たけうま書房の店主・稲垣篤哉さんが聞き役になってくださり、
本作りについて
わたしがしゃべるというものです。
たけうま書房は、
映画館から歩いてすぐ近くですから、
土曜の午後、
映画を観てから
ぶらりお越しになってはいかがでしょう。
ん。
と、
思いだした!
やっぱりこの欄で案内した。
でも、
詳細はきのう決まったことですので、
あらためてということで、
どうぞよろしく。
詳細はコチラです。

・中学の音楽室の早春賦  野衾

岩波ジュニア新書

 

・只管にこころ秘めたる二月かな

一九七九に発足したシリーズで、
巻末の「岩波ジュニア新書の発足に際して」の冒頭に、
「きみたち若い世代は人生の出発点に立っています。」
とありますから、
読者対象としては、
たとえば
近所のひかりちゃんやりなちゃんで、
どう考えてもわたしではない。
が、
このシリーズには、
「若い世代」だけが読むにはもったいない、
どの世代が読んでもおもしろく
ためになる本がいっぱいあります。
恩師・宮田光雄先生の
『きみたちと現代――生きる意味をもとめて』も
このシリーズに入っています。
『きみたちと~』にも感じられることですが、
このシリーズの著者たちは
おそらく、
自分の持っている薀蓄の
ありったけを傾けて
テーマを絞り、
もちろん編集者からの意向にも耳を澄まし、
よく吟味した、
みずみずしいことばを刻んでいますから、
面白くないはずがない。
そう感じたのは、
このシリーズの新刊
『書き出しは誘惑する――小説の楽しみ』を
読んだばかりだからです。
著者は中村邦生さん。
ご自身、小説も書いておられます。
小説の書き出しに光を当てながらの読書案内は、
読書案内ながら、
そのことを通して、
小説を読んで「面白い」と感じる
小説の「面白さ」とはそもそも何なのか、
その元にせまり、
ことばギリギリの微妙に
触れようとしているとさえ感じました。
読了後、
また無性に小説が読みたくなり。
ソーシャルリーディングのまえの
プライベートリーディング。
「面白い」小説を読むと、
ひとに話したくなるけれど、
じぶんだけのたからとして取っておきたい、
そんな気分をパラフレーズしてくれる本でした。
あんまり面白かったので、
同じ著者の
『いま,きみを励ますことば――感情のレッスン』
をさっそく購入。
週末に読もうと思います。

拙稿が秋田魁新報に掲載されました。
コチラです。

・早春の歌を習ひし師を思ふ  野衾

ワクワク感

 

・寒き日や小さき楽しみみて進む

休日出勤した帰り、
Gravityを観に横浜ブルク13へ。
こういうワクワク感があると、
一日の暮らしが楽しくなります。
宇宙飛行士の話。
始まる十分前、
受付開始の館内放送があり、
チケットを渡して半券をもらいポケットへ、
指定された館の入口で
3Dメガネをひとつ借り受けます。
ワクワク感はさらに増し。
封切前の映画予告があり、
上映中のマナーにつき
いつもの注意動画があって
いよいよ本編開始、
に先立ち
3Dメガネを装着するようにとのメッセージ。
はい。
ちゃんと持っています。
ぬうと中年の男
が現れスクリーンを遮蔽、
ナンダコノヤロ、
身を細めようともせず、
腰をかがめようともしないで
前をガサガサと通り
わたしのすぐ右横に座りました。
ちょっと気になり、
それがだんだん度を増し、
このひと、
もしかしたら、
ピストルなんか持っていて、
映画館ジャックを企んでいるとか、
なんてことを。

思う間もなく映画が開始。
小さく小さく
耳鳴りのように聴こえる音と
闇に浮かぶ宇宙船と地球を見た瞬間、
からだごと宇宙に投げ出されていました。
3D。
ワクワクはドキドキに変り、
宇宙服のなかの酸素が
少なくなっていくにつれ、
こちらの息まで
ハッ、ハッ、ハッ、……
すごいスピードで飛んでくる破片を避けるため
スッ、スッと
からだを右へ、左へ。
もう目が離せません。
字幕を追いながら、
いろんなことが頭を経めぐります。
ワクワクドキドキは亢進し、
外も中も見ています。
映画が終ります。
終ったの?
呆となりながらエンドロールを見、
目を上げたら星が見えます。
左手は北斗七星、
かな。
映画館ジャックだったかもしれない男は
いつの間にか
ふつうのオーラに着替え、
そそくさと退場していきました。
ゆっくり、
からだが発酵し
言葉が浮上してくるまで待つことに。
辞書を引くと、
gravityにはいろいろな意味がありました。
映画を観ながらふっふっ
と浮かんだイメージに照らし、
かさね。
トマス・ピンチョン『重力の虹』の新訳もそろそろ。
Gravity’s Rainbow

・雪だるま笑ひも融けて透けにけり  野衾

天気晴朗

 

・雪積もり進めど雪に足取らる

大雪に見舞われた関東地方ですが、
きのうはすっかり晴れ上がり、
雪の白と空の青さが
くっきりすっきりとし、
腹の中まで掃かれたようでした。
ゴム長靴を履いて出社。
途中、
コンビニに寄り、
おにぎり三個とお茶を買う。
休日の会社は
雪山のように静かです。
桑の葉を食む蚕のように文を読み、
ようやくお楽しみの
昼になりました。
おにぎりをあっためすぎて
あっつあつ。
ふはふはふは。
お茶が美味しいこと!
仕事も思いのほか進み、
満足。
ここまで行けたらいいなと、
しるしを付けた
ところまで進んだので、
机の上を片付け、
楽しみにしていた
映画を観に行くことにしました。

・雪掻きの人と言葉を交しけり  野衾