「だんこ」について

 

歩行が困難になった母が、お尻を床にズリズリさせながら進むようになって以来、
おのずと、お尻のことが母の会話に上るようになりました。
いわく、
こうやって進むので、ズボンのお尻の辺りが破けてしまうこともある、云々。
秋田弁では、
こうやって進むがら、ズボンのだんこのあだりがやぶげでしまうごどもある、云々。
ということで、
わたしの地方では、お尻=だんこ。
秋田県教育委員会編、無明舎出版からでている『秋田のことば』
に、
ちゃんと載っていました。
いわく、
「「玉こ」。人の肛門の口にあると想像された玉が「尻子玉」で、
水中でこれをカッパに抜かれると臓腑まで食われると信じられた。
方言では省略形「だまこ」を採用し、さらに「だんこ」に変じたものであろう。
一説、「脱肛」からの変化だという。」
記憶で恐縮ですが、
尻子玉が河童に抜かれる話は『和漢三才図会』にもあったような。
尻子玉⇒「尻」脱落⇒子玉⇒逆転⇒玉子⇒だんこ。
こういうことでしょうか。
一説にある「脱肛」からの変化というのは、
音としては「だんこ」に似ているけど、
わたしとしては、
尻子玉説のほうが好きだなぁ。
好奇心旺盛だった少年時代の父が、
学校近くを流れている川に河童が棲んでいるらしいといううわさが本当かどうか、
それを確かめに川べりを探索した、
そんな話を以前父から聞いたことがあります。
そういうわけで、
子どもの頃からあたりまえに使ってきたことばに、ある時、
ふと、立ち止まるように、
その語源をさぐると、
思わぬ発見があり、なんだか楽しくなります。

 

・ぽつかりの雲行く蜂の羽音かな  野衾