因果鉄道の旅

 

・寒けれど清み増す空の青さかな

根本敬(ねもと・たかし)著『因果鉄道の旅』を読んでたら、
根本敬の根本はこんぽんとも読めるし、
カバーの袖のところに「真実ではないが真理ではある。
意味はないけど理由はある。
そういったものに近頃益々興味を惹かれるのだ。根本敬」
とあり、
物事のこんぽんに迫りそうな気概さえ感じるわけですが、
この本は、サブタイトルにもあるごとく、
自称特殊漫画家・根本敬の「我がオトコ遍歴」でありまして、
どんなことが書いてあるかといえば、
たとえばテレビでたまに見る、
このごろあまり見ない
蛭子能収(えびす・よしかず)さんのことなんかが書いてあり、
蛭子さんは、
接する人間を自分(蛭子)より上等か下等かで判断し、
下等な人間とだけ仲良くする習性がある。
自分(根本)は蛭子さんから見て
蛭子さんより下等と思われているので、
どんなことを言っても平気といっていろいろエピソードを書いてあって、
こんなことを書くときっと蛭子さんに怒られるんではないかと
読者は思うかもしれないけど、
そんなことはちっともなくて、
なぜなら自分より下等な人間の発言だからと蛭子さんは思うはずだからで、
みたいなことがこれでもかと書かれていて
すごく可笑しい、面白い。
根本さんは変だけど、
蛭子さんはもっと変、ということがよく分かります。
そんなかたちでの愛情表現かとも。
本にたまに登場する「街で見かけた素敵なオトコ」の写真は、
オトコたるもののディープさが如実に現れ、
どうするとオトコはこんな風に変貌を遂げるのか、
生まれつきこんな風な人相をしていたのかと
危ぶまれるぐらいの独特の気を発するオトコたちで、
モノクロ写真ではありますが、
この本にいっそうの彩りを添えており、
とてもオトコ宇宙を感じさせてくれます。
初版発行一九九三年、KKベストセラーズより。

・中興の同志集ひし夕べかな  野衾