ノドと小口

 

・朝三時二月の空の眠りかな

本を開いた中側の綴じの部分をノドといいます。
古い本だと
製本のときにかがった糸が見えます。
今はアジロといって、
ページを重ねた背の部分に刻みを付け、
そこにノリを入れて綴じますから、
あまりグッと開くと
本のページが離れることも間々あり。
反対に、
外側の部分を小口といいます。
本を読むには
ある一定の時間がかかり、
たとえば、
いま電車で読んでいる『昆虫記』など、
文庫で十冊ありますから、
全部読むのに半年から一年近く。
ということは、
目でも読みますが指でも
手のひらでも読むことになります。
なので、
遅読は体読、感読、味読でもあります。
本のノドを開いて指を挟むか、
はたまた
本をぐっと開いて両手で文庫本を持ち、
両手の中指で文庫本のノドを
外側から少し押し出すようにして支えます。
ページの小口は両手の親指で押さえ。
そうすると本になだらかなスロープができる。
本を読むということはまた、
指先でなだらかな斜面をつくり出し、
そこに刻まれた文字に
ゆっくり触れては下りてゆく、
またスロープを登って下りてくる、
登山かスキーに似ていないこともない。
登山が
登ることから始まるのに対し、
読書は下山から始まる
ところは違っていますが…。
ともかく、
本を読むのは、
目よりも指先の感覚がものを言い、
味わいを確かめながら進みます。
そこがなんと言っても
おいしく、
好きなところです。

・かまくらの融けて遥かの白き富士  野衾