源平川

 

 新幹線車窓にぎはす桜かな

仕事の打ち合わせで、
三島に行ってまいりました。
きれいな街です。
ゴミがひとつも、というわけにはいきませんが、
それに近いぐらい落ちていません。
土地の人々の意識が、
それだけ高いということのようです。
自然にそうなったわけではなく、
グラウンドワーク三島というNPO法人が中心となって、
二十年の歳月をかけ、地道に、
倦まず弛まず精進してきた結果といえるでしょう。
街を流れる源平川は、
五月の中旬ぐらいから蛍が舞い、
人びとの目を楽しませてくれるそうです。
散歩する人、自転車を颯爽とこぐ人、
なかなか現れない鳥をジッと待つカメラマン、
それぞれ美しい街に溶け込んでいました。

 竹林の下を華やぐ桜かな

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突然ですが

 

 花曇り落ちて行きたき心あり

岩崎宏美さんの歌で、
「シンデレラ・ハネムーン」というのがありました。
♪いつでも二人はシンデレラ・ハネムーン
♪時計に追われるシンデレラ・ハネムーン
作詞・阿久悠、作曲・筒美京平の
ゴールデンコンビですから、
ヒットしないわけはありません。
でも、ちょっと古い歌ですから、
若い人は知らないかもしれません。
当時はけっこう流行って、
岩崎さん、テレビでよく歌ってました。
ところで、
タイトルにもなっている
「シンデレラ・ハネムーン」ですが、
岩崎さんが歌うのを聴くと、
わたしにはどうしても
シンデレラ・ハネムーンとは聞こえずに、
シンデレレラ・ハネムーンと聞こえるのでした。
そのことをきのうの朝、急に思い出したのです。
アップテンポの曲に合わせ、
岩崎さんは踊りながら歌うのですが、
いつでもわたしは
シンデレレラ・ハネムーンにしか聞こえません。
それが可笑しくて仕方ありませんでした。
まじめな、いい歌なんですが、
シンデレレラ・ハネムーンと聞こえて
普通にしていられるわけがありません。
シンデレレラ・ハネムーン、シンデレレラ・ハネムーンと
繰り返し、
わたしはちょっぴり元気になるのでした。

 暑き春カチリと鳴りし入歯かな

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二日遅れ

 

 あたたかに郵便ポストの立ちにけり

秋田に秋田魁新報があります。
秋田を代表する新聞です。
魁という字がむずかしいので、
最近は「秋田さきがけ新報」とも表示されるようです。
全国で四番目に古い由緒正しき新聞ですが、
今月から会社で取ることにしました。
「さきがけ」が縁となり、
いくつかのありがたい仕事をいただき、
ふるさと秋田について、
もっとよく知る必要を痛感したからです。
第三種郵便で送られてくるため、
おととい発行されたものが今日届きます。
♪三日遅れの便りをのせて 船が行く行く 波浮(はぶ)港
という都はるみさんの歌がありましたが、
いや、今もありますが、
一九六四年にヒットした歌ですから、
今はあまり聞きません。
「アンコ椿は故意の花」
おっと失礼、
「アンコ椿は恋の花」。
アンッコー!!と、都さんのあのふんばり声が思い出されます。
「さきがけ」は二日遅れです。
(え。それを言いたいためだけの「アンコ椿」かよ)
秋田で読む「さきがけ」と横浜で読む「さきがけ」は、
ちょっと違っているようです。
記事はもちろん同じなのですが、
わたしの気分が違っているのでしょう。
なかなかおもしろい体験です。

 あたたかやコップの水の三杯目

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早起き

 

 夜桜やキツネタヌキの化かし合い

朝起きてから家を出るまで
いろいろとすることがあり、
眼が覚めたことをこれ幸いにと、
だんだん早起きになりまして、
今は五時に起きています。
歳をとると早起きになるといいますが、
本当のようです。
まず歯をみがき、水を飲んで、
それからこれを書いたり、気功をやったり、
風呂に入り、祖父母に水を上げたり、
けっこういそがしい。
それでもまだ時間がありますから、
やおら体に毛布を巻き、椅子にあぐらをかいて座り、
万全の態勢で朝読みの開始!
バルザックの『人間喜劇』を
五年かけて読もうと思っているところです。

 いずこよりいずこへ渡る花曇り

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風景

 

 朧夜や障子に映る影ひとつ

マンションの理事会が終り
高速道路横の長い階段を上ったら、
満開に咲いた桜を見やる二人連れがいました。
ご夫婦でしょうか。
近づいてみると、
同じマンションの監事の方でした。
「速いですねー」
「ええ。バイクですから。
息子が孫を連れてここに迎えに来るんですよ」
「いつも主人がお世話になっています」
「いえいえ。こちらこそ」
Kさん、なんだか照れくさそう。でも、うれしそう。
Kさん、今度は桜を見上げています。
やがて、息子さんの車がやってきました。
「下の女の子が言うこと聞かなくてね。大変なんだ」
「宝物ですね」
「では、これで…」
「はい。失礼します」

 花曇り腕組み歩く高架下

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妙案

 

 春泥をそろり墓へと辿り着き

このごろのわたしのたのしみは、昼寝です。
食事した後、机に向かうと眠くなります。
そうなると、なにをやってもダメですね。
頭を振ったり、
両手の親指と人差し指で強制的に眼をカッと大きく開いたり、
アアアアアッと大声を出しても、
ほとんど効き目がなく、
水が高いところから低いところへ流れるごとくに、
自然とゆっくり閉じてしまいます。
いっそ、寝てしまえ!
ところが寝る場所がありません。
どこで寝るか?
どうやって寝るか?
いろいろ、三秒くらい思案した結果、
妙案が浮かびました。
わたしの机と後ろの窓との間には割りと広いスペースがあり、
しかも具合のいいことに、
どの方角からも死角になっています。
必要は発明の母!
発明したわけではありませんが、
横になっていてもどこからも見えず、誰も気づきません。
不意のお客さんがあっても、
「社長! お客さんです!」と声を掛けられれば、
忍者のごとくに「は~い」と言って、
姿を現すことができる。すばらしい!
というわけで、
このごろは、昼の食事の後は、
おもむろに新聞紙を広げ、
その上に「大」の字になって十五分ほど寝ています。
初めてやったとき、
総務の中田が「あれ? 社長? 社長?」と近づいてきて、
倒れているわたし、いや、寝ているわたしを見て、
ギャッ!と叫びました。

 残雪や岩にカモシカ立ちにけり

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バナナ

 

 花冷えの空に電気の気色あり

いま、南伸坊さんと糸井重里さんの対談集
『黄昏(たそがれ)』を読んでいます。
二段組四〇〇ページもありますが、
おじさん二人が旅をしながら変な話を延々繰り広げます。
少しというか、かなり変なので、
飽きません。
一応、鎌倉変、日光変、東北変、東京変に分かれています。
あはははは…。
ごめんなさい。わざとです。
変は、変でなく、編です。
読んでいて思わず大声で笑ってしまい、
家人に驚かれたことがありました。
ウチの編集長ナイ2は笑い上戸で、
原稿を読んでいて、いきなり笑ったりしますが、
わたしは笑い上戸でありませんから、
そんなには笑いません。
でも、けっこう笑います。
それは措いといて、
南さんが子どものときに、
汽車に乗っていたら
(汽車なので、たぶんボックス席なのでしょう)
向かいに座っている二人連れが、
カバンの中からバナナを取り出したそうです。
南さんは中学生ぐらい。
バナナを見て、食べたいなあと思ったらしいのですが、
向かいの人に、そう思われるのがイヤで、
いきなりコテッと、
寝たふりをしたというのです。
わたしは、そこでツボにはまってしまい、
笑わずにはいられませんでした。
おかしいじゃないですか。
今までふつうに起きていた子どもが、
カバンから現れたバナナを見たとたん、
コテッと寝るわけですから。
でも、分かるなー、南さんの気持ち。
子どもの時ってそうだもんね。
ほしがる気持ちを知られたくなくて、
あっち向いたり、寝たふりしたり。
さて、その後、南さんどうなったでしょう?
寝たふりをしていた南さんの頬が冷やりとしたそうです。
目を開けると、
「はい。バナナ」
向かいの人が南さんにバナナをくれました。
きのうのまるちゃんの
「『坂の上の雲』さっき見てました…」も好きですが、
この話も好きだなあ。

 朧夜やビル溶け一反木綿なり

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