感慨一入

 テーブルを埋めつくし猪口獺祭
 一入と書いて、ひとしおと読みます。染物を一度染め液に浸すこと、が元の意味なのだそうです。そこから転じて、他の場合と比べて程度が増すさま、いちだん、いっそう、などの意味になったんですね。
 それはともかく、当社10年目にしてようやく税務調査が入りました。やったー!!
 ふつう5年とか7年ぐらいで来ると聞いていたのですが、全然来ませんでした。そうか、儲かってないから来ないんだな、そうか、そうか。と、ちょっとふてくされてもいたのですが、やっと来ました。来てくれました。
 会社として認めてもらったような具合で、ちょっぴりうれしい気分。しかも来てくれた調査員、女性。かつ若い。かわいい。髪、長い。きれい。スタイル、グー!! 脚、きれい、グー!! いい匂い、グー!! グーグーグー!!!
 ほんとに調査員なの? ほんとにほんと? 立ち姿なんて峰不二子そっくりじゃん!
 二日間の調査が終わって、帰ろうと立ち上がった彼女をつかまえ、
「お疲れさまでした。あのー…」と、声をかけました。
「なんでしょう」
「税務調査員を辞めて、民間の会社に勤める人というのは、いないのですか」
「税理士免許をとって独立される方はいますが、民間の会社に勤めるというのは、聞いたことがありません」
「そうですか。いや、仕事ぶりを拝見していまして、取次からの複雑でややこしい、分かりにくい書類を、よくぞ二日間でこれだけ理解できるものかと感心しました。それでなんですが、税務調査員を辞めて、ウチに来てくれませんか」
美人調査員、ニコッと微笑み、
「雇っていただけますか」
わたくし、鼻の下を伸ばして、首を縦に3回ほど振ったことは、言うまでもありません。
美人調査員、最後に一言、
「気持ちよく仕事をさせていただきました。部屋の真ん中で、こんな大きなテーブルで仕事をさせてもらったのは初めてです。ありがとうございました」ぺこりと頭を下げました。
 なるほど。考えてみれば、税務調査というのは、会社にとっては、あまりうれしくないことで、部屋の隅っこに追い遣られ、資料を見るのでも、前のダンボールを片付けて、次のダンボールを持ってきて開けて取り出して、みたいなことがきっと多いのでしょう。なるべく調査そのものにかかる時間を少なくしてやろうという会社の気持ちの現れでしょうか。わかります。でも、ウチはそれをしませんでした。なんででしょうね。したくてもできなかったというのが正直なところかもしれません。
 とにかく、そんなふうにしなかったおかげか、彼女からいろいろありがたい智恵を授けてもらうことができました。取次に対して持っていた積年の疑問も、彼女の言葉を通して明確になりました。今後の会社経営に活かしていくつもりです。
 部屋を後にする美人調査員の後姿の、なんとかっこ良かったことか。
 また来てほしいぐらいです。

4807cebcc821f-080405_0853~0001.jpg