ムーディ勝山

 きのうは陣内智則と藤原紀香の結婚披露宴が神戸のホテルであり、その模様をテレビが中継していた。
 かつての藤原紀香ファンの一人としては見ないわけにもいかず、複雑な思いで、涙を浮かべ(このごろ、よく泣く)ながら見ていた。
 すばらしい披露宴で、招待された芸能人の多くが涙を浮かべていた。テレビ前のわたしも感動の涙で顔中ぐしゃぐしゃになった。
 藤原紀香のスペシャルゲストは郷ひろみ。「お嫁サンバ」を歌った。ヒロミ・ゴウはノッテいた。かたや陣内智則のスペシャルゲストはといえば、だれだ? だれだ? なんと、あの天才ムーディ勝山。わたしが今一番好きなお笑い2人のうちの1人(あとの1人は柳原可奈子)。
 颯爽と登場したムーディ勝山。もうそれだけで可笑しい。すっくと立ったその立ち姿が、もう笑える。顔はいつものように、いたって真面目。服装は白いタキシードに黒の蝶ネクタイ。いつもの格好が結婚披露宴の司会者風なので、芸風とよくマッチした登場となった。そして、彼の持ち歌、一度聴いたら絶対耳から離れないデタラメで破壊力抜群のあの無意味な名曲を歌った。
  チャラチャチャ チャラチャ〜
  チャラチャ チャ チャラチャ〜
  チャラチャ チャラチャ チャチャラチャラチャ〜
  右から 右から何かがきてる〜
  僕はそれを左へ受け流す〜
  いきなりやってきた〜
  右からやってきた〜
  不意にやってきたぁ〜 右からやってきたぁ〜
  僕はそれを左へ受け流す〜
  右から 左へ受け流す〜
  左から右へは受け流さない〜
  右から 右から そう右からきたものを
  僕は左へ受け流す〜
  もしも あなたにも
  右からいきなりやってくることがあれば〜
  このうたを思い出して〜
  そして左に受け流してほしい
  右から来たものを左に受け流すのうた〜
  あ〜あ〜 この東京砂漠〜
 もう1曲、ムーディ勝山は、陣内智則と藤原紀香の結婚披露宴用の歌を作ってきており、その歌詞はと言えば、陣内と紀香の結婚披露宴を左へ受け流す〜、というもので、陣内は、受け流すなあ!!とつっこんでいたが、わたしの涙はいつの間にか、感動の涙から爆笑の涙に変わっていた。♪あ〜あ〜 この東京砂漠〜

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感応

 これまでも、たとえば小説を読んでいて、映画を観ていて、感動的な場面に出くわすと、あ、まずいと思いつつ、つい、目頭を押さえることはあった。しかし嗚咽することはそんなになかった。
 ブラッド・ピットが主演の『リバー・ランズ・スルー・イット』を有楽町の映画館で観たとき、嗚咽した。映画館を出ても、なんだかふらふらして、適当に歩いて目に付いた喫茶店に入りコーヒーを頼んだら、また泣けてきた。思い返せば、当時の境遇と心身の状態がまずあって、そこに映画の何らかが響いたということなのだろう。
 本となると、嗚咽したことなどなかったのに、休日『大峯千日回峰行』を読んでいたとき、あるところに差しかかったら、突然、ワッと声が出て大声で泣いた。自分でも何がなんだかわからずに、あわてた。
 1300年間で2人目という千日回峰行を満行された塩沼亮潤さんの荒行の話は、どこを読んでも驚きと感動に満ちているけれど、泣いたのは、塩沼さんの話ではなく、聞き手の板橋興宗さんの話。
 だれも真似のできない荒行を終えられた塩沼さんに最大限の敬意を払いつつ、板橋さんは、これからは、塩沼さんが住職をされている寺で、ほかの人たちといっしょに修行してくださいとお願いしている。
 けさ、そこをもう一度開いてみたら、不思議な気がした。どうして嗚咽したのだろうと思う。板橋さんの捨て身のまごこころとでもいったものが感じられたのかもしれない。

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読経と読書

 …それで、私なりにやっているうちに、何だ、お経というのは意味がわかって読んでもよし、わからないで読んでもよし、ということがよくわかったわけです。
 わかって読んでもいいが、できるならばわからんままに、ただ声を出して読むことが最高だと会得したのです。それ以後はお経の意味を尋ねる気がしないのです。腹の底から声を出してただ読むこと。それが読経という行です。
 意味を考えるなら、このまま寝っ転がって読んでもいいんですよ(笑)。
(『大峯千日回峰行』対談中、聞き手の板橋興宗禅師のことば)

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教え子

 休日、横浜駅のホームで、横須賀の高校に勤めていた時代の教え子を見た。線路を挟んで反対側のホームを歩いていたから見間違えるはずはない。
 Yさんは高校生のときからスッと立ち、涼しげに颯爽と歩く。よほど声をかけようかとも思ったが、やっぱり、よした。
 Yさんはちょっと立ち止まり、数秒なにか考える風情だったが、上り東海道線の電車がわたしの乗る横須賀線の電車よりも早く到着し、人ごみの中に消えた。声をかけずに良かったと思ったけれど、だまって見ていたことを少し後ろめたく感じた。

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造本装幀コンクール

 日本書籍出版協会からの知らせで、小社刊行の『Beowulf』が第41回造本装幀コンクールの外国語版部門で日本書籍出版協会理事長賞を受賞したことがわかった。小社としては、『妊娠するロボット』以来2度目の受賞となる。装幀者は長田年伸、印刷・製本はシナノ。
 長田君は大学在学中、新井奥邃に興味を持ち、卒論も新井をテーマにした。卒業後、小社に入社し、いくつもの本を手がけたが、デザインへの興味が強くなり、さらに勉強すべく会社を去った。今はデザイン事務所で研鑚を積んでいると聞いた。わたしは、長田君の装幀が認められたことが、何よりうれしい。彼が今後どういう進路に向かうにしても、見よう見真似で始まった仕事が、小社時代にすでに人さまが認める域に達していたことは疑いようのない事実。その意味で、春風社は若い人にとっての実験場であってくれればと思っている。若い人が伸び伸び、生き生きと動いている空間が一番だ。

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二度手間

 ある手続き上の書類が送られてきて、必要なものを揃え指示通りに送ったのに、書類不備で突き返された。だったらなんで最初から言わねんだ。ったくよー。よっぽど担当のものに文句を言ってやろうかと思ったけれど、文句を言ったところで埒があかない。仕方がない。というわけで、今日は朝一番で法務局に出向くことになった。
 法務局といえば、会社をつくるために初めて訪れたときのことが忘れられない。「あのー、会社つくりたいんスけど」。受付にいたそのフロアの業務をすべて熟知しているという風情の男性が怪訝そうな目でわたしを見、「有限ですか。株式ですか」。「どう違うんですか?」とわたし。「知らないんですか?」「いえ。あの、知っています。有限です」「有限ね。伊勢佐木町の有隣堂の裏手に文房具店がありますから、そこで『有限会社の作り方』というのを買って、それに記入して提出してください」。あのとき言われたことばは正確に憶えているのに顔を思い出せない。ミスター法務局。

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1300年間で2人目!

 4年に1回開かれるオリンピックのマラソンでは世界記録が次々更新されるが、なんと1300年の歴史で2人目という奇跡的な偉業を成し遂げた人がいる。塩沼亮潤さん。昭和43年、宮城県生まれ。
 修験道のなかでも最も過酷な行とされる千日回峰行にいどみ、みごと満行を果たした。
 昭和63年に吉野の金峯山で出家得度。千日回峰行満行に9年の歳月を費やしたというから驚く。山を歩く期間が5月3日から9月22日までと決められていて、1年で4か月120日しか歩けない。あとは霜が降りたり雪が積もったりで、物理的に無理なのだそうだ。
 往復48キロの山道を1日16時間で駆け上り、駆け下りる。夜の11時半起床。滝で身を清め、その後500段ある階段を上って行者の参籠所に行き、そこで着替えをしながら小さなおむすびを二つ食べる。12時30分頃に編み笠をかぶり提灯一つ携え、一人で山へ分け入る。24キロ先にある折り返し地点の大峯(おおみね)山頂に着くのが朝の8時半。そこで小さなおむすびを食し、来た道を下って吉野山に戻ってくるのが午後3時半。「自分のことは自分で」というのが吉野の修験の掟で、山から戻り泥だらけになった装束を洗い、掃除をし、それから食事をとる。山を歩いて気がついたことを日記につけると午後7時。それから4時間半の睡眠をとり、11時半に起床。また山へ入る。……
 3か月目がちょうど梅雨明けにあたるらしく、そこでぐんと体力が落ちる時期があるそうだ。その1週間くらいは決まって血尿が出る。それを過ぎると体が軽くなるという。ある時、夜中に山道を歩いていて、急に足をつかまれたように両足が動かなくなった。「あれ、何だろう。ここはどこだろう」と我に返ったら、30センチくらい先が崖っぷちだった。うとうとしながら歩いていたことに気づいたという。
 毎月送られてくる『致知』に塩沼さんと筑波大学名誉教授で遺伝子工学の村上和雄さんの対談が載っており、むさぼるように読んだ。百日練功でもおぼつかないというのに、1300年間に2人目という千日回峰行の過酷さを想うと眩暈がしそうだ。というか、想像を絶する。顔写真も載っていたので、よく見たが、拍子抜けするほどの温顔なのだ。とがったところなど微塵も感じられない。現在は仙台市秋保(あきゅう)にある慈眼寺住職。
 もっと知りたくなったので、さっそく『大峯千日回峰行』(春秋社)をネットで注文。

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