ハガネのように

 朝の横須賀線でシートに座れることはまずないのに、きのうは珍しく二人分のスペースが空いており、座った。幸先良し。いいことあるかな。ちょっぴり浮いた気分になっていたのかもしれない。隣りに座った男性(この人も座れたんだ)が鞄の中からおもむろに本を取り出した。割りと大事そうに扱うようだったから、なんとなく目がそっちに行った。すると、そこでわたしは見てはいけないものを見た。思わず吹きだしそうになったが、そこはグッと我慢し、すぐに顔を車輛と直角に、すなわち流れ行く外の景色に顔を向けたのだが、さっき目にした言の葉がアタマに貼り付いて離れない。いけない。いけない。邪気だ邪気。無念無想。心頭滅却… 無理!! 結局、電車は横浜駅に着き、京浜東北線の電車に乗り換えても、気を許すとまた浮かぶ。桜木町の改札を抜け、みなとみらい方面へ歩き出すとそこは灼熱の大都会。ランドマークタワーが巨大なペニスとなって屹立し、空に雄叫びをあげていた。
 ……ペニスは焼き鍛えられたハガネのように固くなっていた。……

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