ひとり上手

 中島みゆきの歌だ。♪手紙なんか よしてね 何度も繰り返し泣くから 電話だけで捨ててね ぼくもひとりだよとだましてね、というような歌詞もある。
 酔っ払ったとき、坂道を登りながらこれを思いっきりデカい声で歌うと、変な気分になってくる。前は「月の砂漠」をよく歌った。♪つ〜きの〜 さば〜くを〜、とやると、電柱もアパートもタクシーも、いま建築している建売住宅も目の前から消え、一面の砂漠、そして荒野にどデカい月が浮かぶ。ね。
 「ひとり上手」はどうか。坂道を登りながらこれを歌うと、とても悲しい歌なのに一向に悲しくない。リズムがいいんでしょうね。ヨイショヨイショと坂を登るのに適している。元気に登れる。が、その後だ。坂を登り切り足を止め、ハーハーゼーゼー言いながら、息せき切ってしつこくこの歌を歌うと、うまく声にならず、なんとも切ない、これ以上ないような悲しい歌を自分が歌っているのに気付く。カラオケで歌ったのでは絶対に出ない迫真のリアリティー。あまりの悲しさに、自分で歌っているにもかかわらず悲しくて悲しくて涙が溢れ、鼻水まで出てくる。言葉と身体ってこういう風にクロスするのかと妙に納得する。(でもこの納得、たぶん違う)