お・にぎり寿司

 おもしろいひとを見た。於JR保土ヶ谷駅三崎丸。夕刻、カウンターに座り寿司をツマミに焼酎を飲んでいたら、右隣、椅子を一つ空けて黒いコートの男が座った。店の女性に飲み物を尋ねられ、酒は頼まずコーラを所望。ひと月ほど前あたまを怪我し包帯を巻いていたのがようやく取れた板前が、カウンターの中から「いつもの四本ですね」と言った。男は黙って頷き、「それと納豆巻きも」。「納豆巻きも四本ですか」。「そ」。
 やがて、一枚のゲタに六個のっている干瓢巻きが四枚、しめて二十四個、納豆巻き四枚、しめて二十四個、あわせて四十八個の干瓢巻きと納豆巻きが男の目の前に並んだ。男は、味わうよりも早く両手でパクついた。
 中トロばかりを食べるイタリア人や蟹がある寿司屋では蟹ばかりを食べる人間(おら)もいるくらいだから、干瓢巻きと納豆巻きだけを食べる人がいても一向に問題はない。が、はじめてだったので、つい見とれてしまった。わたしばかりでなく、みんな見ていた。男は遠足みたいな妙なオーラに包まれていた。両手だから、四十八個があっという間に無くなった。