手が読む

 新しい原稿が入ってくると、まずザッと読んで内容を把握し、装丁を含めどういう作りの本にするか凡その見当をつける。この時点では眼と頭で読んでいる。
 さて校正だ。右手にボールペンか鉛筆を持ち文字通り一字一句、札をひっくり返すようなスピードで吟味していく。枝葉を取り去るだけですっきりと読み易くなる場合は割と仕事が捗る。問題はそれでうまくいかない場合。
 著者の言わんとするところを汲みつつ、その文意にさらに適合する単語や熟語を見つけ、また、センテンスを分けたり伸ばしたり、組み立てをまるっきり換えてしまうこともある。この作業が必要な場面にくると一気に仕事のスピードが落ちる。
 うまい言葉が見つからず、椅子から離れベランダに出て新鮮な空気を吸ったり、盆栽の新芽を覗いたり、ふたたび社屋に入りウロウロし、部屋の真ん中にあるテーブルに煎餅やチョコレートがのっていればそれを摘まみ、なければ椅子に戻って二、三度わが身をくるくる回転させたり、机上に積んである本の背文字をぼんやり睨んだり、挙げ句の果ては神経的に自分とこのホームページにどなたか書き込みをしてくれていないかチェックしたり、メールボックスをさっき見たばかりなのに無意識でまた開いてみたりと、めまぐるしい。なにかに縛られているような感じ。動物園の白熊があっちにウロウロこっちにウロウロしている気持ち(!?)がよくわかる。
 パッと閃く時もあればそうでない時もある。閃いて決まった! と思えるのは一日のうち何度あるだろう。体調によるところも大きい気がする。