ケチャケチャケチャケチャ

 

・うだりつつ目には見えねど秋薫る

週一で通っている気功教室に、
かつてマラソン選手、
いま熊本市議会議員の
松野明美によく似た方がいらっしゃいます。
彼女と話したことはありません。
教室は夜の七時ちょうどに始まり、
八時から十分休憩、
後半三十五分のセットに入ります。
休憩は休憩ですから、
みなさんそれぞれですが、
割と静かなまったりとした時間が流れています。
わたしは椅子に斜めに腰掛け、
頭を後ろに反らせつつ、
両手で抱えるぐあいに休んでいました。
ら、
後ろからぺちゃくちゃと、
ケチャケチャと、
ケチャケチャケチャケチャと、
早口のさえずりが聞こえてきました。
小声なので、
内容までは分かりませんが、
延々さえずっています。
そのトーン、早口度、
庭にまかれたニワトリの餌状態のぱらついた言葉、
まさに松野明美でした。
顔が似ているということは、
ほかの行為、動作も似ているということなのでしょう。
でも、
これほどまでとは思いませんでした。

・狂ひ空灼熱地獄熱帯夜  野衾

日々の泡

 

・夕立に日中の汗流したる

いただいた原稿をアタマからていねいに読み、
チェックしていく作業は、
とっても地味で、
いわゆる「編集者」のイメージとは
かけ離れているのではないでしょうか。
しかし、
硬い地面を掘り起こすようなその作業のなかにも、
微かな笑いや癒し、
息抜きがないわけではありません。
たとえば、
戦前の非行少年に関する原稿で、
花島政三郎先生の文献に触れられている箇所がありました。
花島先生は、
宮城教育大学におられた方です。
その花島先生の「花」がなぜか「北」になっていました。
たしかに「花」と「北」は、字の形も似ています。
間違えたのが原稿を執筆した本人か、
依頼された入力者かは分かりませんが、
(執筆者とは考えにくく、
おそらく入力した方でしょう)
いずれにしても、
苗字に「島」が付く三郎といえば、
北島三郎!という、
その思い込みが指先を誤らせた、
に違いありません。
「北」を赤のボールペンで「花」に直しながら、
間違えて入力した、
逢ったことのない名前も知らないその方と、
コーヒーでも飲みながら、
しばし歓談した気になりました。
そんなことはだれでもやる間違いです。
目くじらを立てるほどのことではありません。

・露零し嘗めてしょっぱき左腕  野衾

喫茶セブン

 

・暑き夜闇に八つの眼が光る

横浜タカシマヤ七階にある喫茶店。
店の名前が喫茶セブン。
七階にあるから喫茶セブン。
ちょっと安直か。
でも、おぼえやすい。
打ち合わせのために初めて入りました。
店内が割と広く、
大きなテーブルが設えられているため、
話すにはもってこい。
ホットコーヒーをたのんだのですが、
とても美味しく、
お代わりをしました。
税込み五二五円也。
静かだし、
横浜駅のすぐ近くだし、
これからちょくちょく使おうと思います。
*
七月二三日付け秋田魁新報文化欄に、
拙稿「根のある人 中村千代松「随感録」」
が掲載されました。
コチラです。

・カブトムシその甲冑の艶やかさ  野衾

巨球

 

・暑き日は宙に巨球の現れり

このごろは少なくなりましたが、
歩いているときに、
なんの前触れもなく、
疲れているわけでもないのに、
目の前に
とてつもなく巨大な球が現れ、
あまりに巨大(たとえば地球)なために、
口をあけて噛み付こうとするのですが、
あまりのデカさゆえ、
球面が球面でなく平面と感じられ、
噛み付こうにも噛みつけません。
それってなんなのか。
女中の玉さんの陰部を
わんぐり齧りたくなるという蘆花先生の、
性の匂いと共通するなにかなのか、
わかりません。
とにかく、
そんなことも先日、
池内紀さんに話したのでした。
だってカフカの訳者ですから。

・夏休み真白きファーブル昆虫記  野衾

カフカ

 

・獺祭に甘エビ味噌の旨さかな

仕事であれ、
プライベートであれ、
まったく気がかりなことのない日というのは、
あるのでしょうか。
カフカの三つある長編小説を読み返し、
身につまされ、
我がことのようで、
ふと、そんなことを思いました。
あの時あの人は
なんであんな言い方したのかな、
わたしの言い方のどこかいけなかったのだろうか、
(気に障ったら謝ります)
それとも
他からこちらが感知できない良からぬ情報がつたわって、
それでなんだか不機嫌そうに見えたのだろうか、
なんてことが、
つらつら気にかかることはよくあります。
他人事ではありません。
気にしなくてもいいようにも思いますが、
なにか重大な見落としか欠陥がわたしの振る舞いにあって、
それが相手の気分を損ね、
ひいてはこれから起こる悪い前兆の
しるしであるような気さえしてくる。
その意味で、
カフカはきょうのわたしにとっての小説です。
こころの弱さ、
精神の減衰に過ぎないと己を納得させるのですが、
そんなときは、
好きな詩人のように、
大空でも被って
何もしないで不貞寝したくなります。

・白服の袖揺れ祖父の香りせり  野衾

いよいよ明日

 

・アスファルト毛穴ふさがる酷暑かな

ドイツ文学者でエッセイストの
池内紀さんをゲストにお招きしての読書会が、
いよいよ明日(土)に迫りました。
池内さんの自著2冊、訳書1冊を取り上げ、
ご本人を囲みながら、
旅、カフカ、翻訳の裏話について、
いろいろ楽しいお話をうかがいます。
取り上げる本は、
『海山のあいだ』(中公文庫)
『となりのカフカ』(光文社新書)
『香水――ある人殺しの物語』(文春文庫)

どれもおもしろいですよ。
席に少し余裕があります。
ご興味のある方はぜひお越しください。
ワインを用意してお待ちします。

日時 7月21日午後6時~
場所 春風社
参加費 1000円

詳しくは、こちらをご覧ください。

・瞑想にあらず居眠り気功かな  野衾

悪態

 

・西空や梅雨の明けたる色をなし

定食屋にて。
「……自分が捨てるところでもないのに
イチャモンつけやがって、
……いるんだよね、ああいうババアが。
プラゴミを捨てる日じゃないっていうわけさ。
ああ、そうでございますかと。
……。
自分の区域のところなら、文句いうのも分かるよ、
他人のところなんだから、関係ないじゃない。
ったくよー。
……。
ゴミみたいなしわくちゃの顔しやがって。
よっぽどひまなのかね。
腰曲がっちゃってさ、
お前は意地悪ばあさんかっていうんだよ。
ったく……。
ルール違反する奴がいるんじゃないかって、
いつも見張ってんじゃないの、……」
延々、憤懣やるかたなしといった具合です。
途切れがちになりながらも、
大声でまくし立てています。
顔を上げ、
ふと見遣れば、
眠い干しブドウのような
けして若くない女性が分厚い赤い唇から
口角泡を飛ばしてしゃべっているのでした。
向かい合わせで聞いていた
こちらもけして若くない二人の女性は、
眠い干しブドウのような女性のあまりの勢いに呑まれ、
仕方なく相づちを打っているような具合。
干しブドウ、
よほど腹に据えかねたんでしょう。

・一日の汗と埃をシャワーかな  野衾

 

 

● 「読書会」のお知らせ

春風社事務所を会場にして、
毎月行っているトークイベントのお知らせです。
今月は、
「池内紀の読書会」と題し、
ドイツ文学者でエッセイストの池内紀さんを
ゲストにお招きします。
池内さんの自著2冊、訳書1冊を取り上げ、
ご本人を囲みながら、
旅、カフカ、翻訳の裏話について、
いろいろ楽しいお話をうかがいます。
取り上げる本は、
『海山のあいだ』(中公文庫)
『となりのカフカ』(光文社新書)
『香水――ある人殺しの物語』(文春文庫)

今回は土曜日ということもあり、
大勢のご応募が予想されます。
お早目のご予約をお願いします。

日時 7月21日午後6時~
場所 春風社
参加費 1000円

詳しくは、こちらをご覧ください。