言葉を忘る

 

・気もそぞろ待ち遠しきは夏休み

サンドイッチなら、
上下のパンに当たるこの欄の俳句でありますが、
ときどき、
たしかこんなようなイメージの季語
あったよなあ、
なんだったけなあ、
と思い出せずイラつくことも。
夏の日に、
涼を求めて、
風通しのいい軒先なんかに居ることを、
なんとかっていったなあ。
団扇なんか持って端に居ること。
端っこに居ること。
端居か。

・生きものの到来を待つ端居かな  野衾

一斉に

 

・空の蓋開けてけふより蝉の鳴く

JR保土ヶ谷駅で降りてとぼとぼ歩いていましたら、
あちこちからセミの声。
畏友鉄信の春の句に、

・うぐいすも練習すればうまくなる

というのがありますが、
セミもまた、
始まりはなんとなく覚束なげ。
夏を寿いでか嘆いてかは分かりませんが、
これからアジーアジーで、
だんだん上手くなっていくのでしょう。

・ほととぎすなにを寿ぐ厠かな  野衾

新冷蔵庫

 

・夏草や眠りの底のながき夢

二十五年(それ以上?)つかった冷蔵庫の寿命が来まして、
インスパイヤーザネクストのに替えました。
また二十五年つかうとして、
そのころわたしは…。
そういうことはとりあえず措いといて、
ドアを閉じると、
外が点灯、
なんだこりゃ。
未知との遭遇。
押すとピピッと音がし、
なんとも平成。
昭和はまた遠くなっていくようです。
今どきの冷蔵庫は
どのメーカーのもそうなんでしょうが、
水を容器に注いでおくだけで、
四角い氷っこが
自動的にできています。
昭和の冷蔵庫のように、
プラスチック容器に水を入れ、
冷凍庫に運び入れるまでに、
ゆっくり静かに移動させたにもかかわらず、
ちょっと傾けただけで
だらだら水をこぼしてしまって
アリャリャリャリャー!!
なんてことはありません。
ということで、
この週末、
氷っこばかり食べてました。

・夏の午後裸で寝たる日もありき  野衾

仕事を呼ぶ

 

・ビル見上げ行きつ戻りつ蟻のごと

この仕事をしていて面白いと思うのは、
個人的な興味関心と響きあうような仕事が、
かなりの頻度でもたらされること。
エリオットを読んでいると、
エリオットを研究している先生からの問い合わせがあり、
中野好夫を読んでいると、
シェイクスピア関連の論考が寄せられ、
またなんとなく、
バルザックを読もうかなぁ
と思っていた矢先、
バルザックの新訳や、
研究論考が机上に載っていたりと。
不思議というしか言いようがありません。
嵐を呼ぶ男は、
1957年に公開された
石原裕次郎主演の日本映画ですが、
同じ年に生まれたわたしは、
さしずめ
仕事を呼ぶ男?
なんて。
とにもかくにも、
自分が興味を持っているひと、
関心を持っていること
に関係する原稿を
いちばんに読めるというのも、
編集者の仕事のいいところだと思います。

・カナヘビや主(ぬし)も暑いか舌を出し  野衾

ジョーズ

 

・夢うつつ我が身世にふる星祭り

記憶違いでなければ。
初めて見たのは高校卒業の日。
ジョーズを見るか
百恵友和の春琴抄を見るか、
迷わずジョーズにしたのだったかと。
映画館に行く前に
卒業証書を寿司屋に忘れ、
たしか後で取りに行った。あった。よかった。
そのジョーズ、
きのうテレビでやってました。
つい最後まで見てしまいましたよ。
船が傾いで船長が甲板を滑り落ち
サメに食われるシーン、
ドド、
迫力あったよなぁ。
映画館では、
見ているこっちまで食われる気がし、
前席のシートを思いっきり踏んづけたっけ。
二十年ほどまえ、
以前勤めていた会社の社長と
アメリカに行った折、
ユニバーサルスタジオを訪ねたら、
ジョーズが上手に飾ってあった。
へ~、これであったか。
坊主は屏風に。

・七夕や流れ星ゆく五十年  野衾

冷蔵庫

 

・スマホ飽き賢治片手の木下闇

数年前からたまにヴウォン
と、
獣が暴れるような音を発していた我が家の冷蔵庫が、
ウォーーーーーン
と、
パルス信号がフラットになるような具合に
低音を発するようになり、
とうとう、
ただの白い戸棚と化しました。
ドアを開けても、
まったく冷気なし。
静かにただそこに立っています。
二十五年は使いましたから、
寿命が来たのでしょう。
ネットで調べたら、
こんなに長持ちなのは珍しいようです。
よく働いてくれました。
シャープ製でした。
いろいろ思い出もありまして…。
グスン。
て、
浸っている場合ではありません。
新しいの買わなくちゃ。
行かなくちゃ。
買いに行かなくちゃ。

・夏草や小さきいのちの伏せ処  野衾

たっ、たたっ、たぬっ

 

・まな板のおと木霊するミズタタキ

缶ビールで喉をうるおし、
一日の締めの晩さんを終えソファで寛いでいたころ、
モサモサッ
とベランダに黒い影。
いきなりそれは現れました。
どでかい猫っ、
と思いきや、
さにあらず、
紛うことなき、た、ぬ、き。
しかも子連れ。
母だぬき、窓越しにこちらを凝視。
まともに目があい、
それからおもむろに子を従え、
隣の部屋のほうへ去っていきました。
いやああああ、
ほんとうに驚きました。
これまでこの辺で
狸を見たとか、
わたしも俺もと言われても、
そんなに多くいるなら、
なんでおいらが一度も見ないのさ、
と、
眉につばして聞いておったのですが、
いやはや。
しかも、
ほんの二メートル先ですもん!
そうか。
ここ御殿山は、
にんげんの御殿でなく、
たぬき御殿であったのか!

・ギザギザと陰を求めて酷暑かな  野衾