たっ、たたっ、たぬっ

 

・まな板のおと木霊するミズタタキ

缶ビールで喉をうるおし、
一日の締めの晩さんを終えソファで寛いでいたころ、
モサモサッ
とベランダに黒い影。
いきなりそれは現れました。
どでかい猫っ、
と思いきや、
さにあらず、
紛うことなき、た、ぬ、き。
しかも子連れ。
母だぬき、窓越しにこちらを凝視。
まともに目があい、
それからおもむろに子を従え、
隣の部屋のほうへ去っていきました。
いやああああ、
ほんとうに驚きました。
これまでこの辺で
狸を見たとか、
わたしも俺もと言われても、
そんなに多くいるなら、
なんでおいらが一度も見ないのさ、
と、
眉につばして聞いておったのですが、
いやはや。
しかも、
ほんの二メートル先ですもん!
そうか。
ここ御殿山は、
にんげんの御殿でなく、
たぬき御殿であったのか!

・ギザギザと陰を求めて酷暑かな  野衾