蟬君

 

・雨上がり葉裏さやけし蟬しぐれ

八月に入りいよいよ暑くなってきました。
が、
そんなに長くは続かないでしょう。
そのうち秋は忍び込み。
蟬君たちは、
最大音量で鳴いているものの、
一歩外へ出れば、
あちこちでころんと死骸が落ちています。
傷んでいない死骸を拾い上げると、
死骸かと思いきや、
ぎぎ、ぎぎと鳴くから、
ちょっとうれしくなり、
緑のほうへ放ってやると勢いよく飛んでいくのもいます。
きのうは体半分になった蟬君の死骸を、
葬儀係よろしく蟻たちが
せっせせっと片付けていました。
いのちの片付け。
いのちが形を成して怒ったり、泣いたり、
解けたり、
愛し合ったりもして、
最後片づけてもらいます。

・夕涼や米白くなり研ぐほどに  野衾

注意信号

 

・子をおもひ孫おもひして軒風鈴

一昨年でしょうか、
痛風発作に襲われまして、
初めてのことでもあり、
いで、いでいで、いでででででーー!!
と、
わめき散らしていたわけですが、
以来、
痛みを通して学習し、
ん!?
なんだこの感じ、
あのときの痛みと、
(正確には痛みへ至る)傾向
が似ていると感じるや、
極力ビールと烏賊を控えるようになりました。
三日もアルコールを止め
ひたすら水を飲めば、
スッと痛みが退いていくから
不思議。
ということで、
今回も大ごとにならずに済みました。

・ビアガーデン後ろめたさの日が暮れぬ  野衾

工事現場よりも

 

・耳元も足元からも蟬の声

八月に入りました。
蟬が盛んに鳴いています。
大きな木の下に入ろうものなら、
密閉された
見えない半球のドームに閉じ込められ、
そこで蟬の声を
聞かされているような。
ワーワージージーギャーギャーミンミンミンと、
悲鳴嬌声歓声阿鼻叫喚の嵐。
ながく居たら
鼓膜が破れそう。
近づいて一匹だと鳴き止む蟬も、
大勢だとどこ吹く風、
屁の河童、
鳴き止むどころか、
ますます、
ワーワージージーギャーギャー
ミンミンミンミンミンで。
閑さどころの騒ぎではありません。

・我が来てワッと飛び立つ雀かな  野衾

今が融けだす

 

・楽しくてひとりぽっちの夏が来る

道元は西暦1200年生まれですから、
いまから816年前、
計算しやすい。
朝、
道元の『正法眼蔵』を読んでいると、
たとえば行持、修行について言っている箇所など、
新井奥邃を初めて読んだときの
清々しさとでもいうのか、
清新の気に触れるような具合で、
ありがたく感じます。
96歳で亡くなった哲学者の森信三が、
『奥邃廣録』を
『正法眼蔵』のようなものか
と、
たしかどこかで触れていたはずと記憶しており、
いつか読もうと思っていたのが、
やっと実現した形。
本を読もう、
もっと本を読もうというとき、
本に封じ込められている今が、
何百年、
千年の時を超え、
ページを繰るほどに融けだしてき、
現在の今と過去の今が同期することは、
替えがたく
うれしく楽しくありがたい。

・梅雨明けて精いっぱいの雲がゆく  野衾

顔で採る!?

 

・物語いよよ始まる夏木立

半ば冗談だとは思いますが、
春風社は顔で採用しているのですか?
と、
このごろ数名の方に訊かれました。
そう問われると、
そうではない
と否定するのも気が引けるけれど、
かといって、
そうだよ
と開き直るのもどうかと思うし、
したがって、
今のところ、
美人ぞろいですね
の、
ほめ言葉としての質問と受け止めています。
「美人の方募集」
なんて広告出したら、
どっかからこっぴどく
とっちめられるんでしょうね。
「美しい方募集」
なら、
精神的なものも含めてすべて、
ということでOKか?
ダメか。

・むつと来る夏草刈りの匂ひかな  野衾

BGMの蟬

 

・休日の四時を過ぎたり端居かな

お、今日が鳴き始めか、
と思ったのも
束の間、
このごろは、
ふと立ち止まって、
蟬くんどうした? と意識して初めて、
ああ鳴いてる鳴いてる
と。
いつの間にやら
一つの環境になっているのでした。
こういうことって少なくないかもしれません。
中原中也の詩「羊の歌」
に
こんなくだりがありました。

それよ、私は私が感じ得なかつたことのために、
罰されて、死は来たるものと思ふゆゑ。

あゝ、その時私の仰向かんことを!
せめてその時、私も、すべてを感ずる者であらんことを!

・瓜かじり飛び散る汁や鼻の下  野衾

蚊と木魚

 

・はらぺことたらふくせわし蟬の腹

漱石の句に、

・叩かれて昼の蚊を吐く木魚かな

があり、

大田南畝の句に、

・叩かれて蚊を吐く昼の木魚かな

があります。

大田南畝の南畝は号で、
蜀山人も号。
たしか教科書で習ったような。
江戸時代の文人で、
漱石よりも前の時代のひとですから、
漱石は、
南畝の句を知っていて、
単語の並びをちょっと替えてみた
ぐらいのところでしょうか。
いまなら盗作と騒がれるでしょうね。
それはともかく。
どっちの句がいいかということになると、
わたしの好き嫌いのハカリは
南畝のほうへすこし
傾くかなぁ。
まぁ漱石のも悪くはないのですが…。
これは実地検分し
句の味を実証的に確かめるのが一番かと。
そこで、

・蚊を入れて叩いてみたき木魚かな  野衾