・田舎駅待合室の春日かな
面白いCDを見つけました。
『春日八郎「三橋美智也を歌う」』
これは聴かずにいられません。
おんな船頭唄、石狩川悲歌、武田節、
リンゴ村から、哀愁列車、古城、センチメンタルトーキョーなどなど。
三橋が歌う時よりテンポを遅くし、
キーも少し下げて歌っているようですが、
いやはや、
これはたしかに春日八郎の歌の世界。
三橋の声がやさしく包み込むような抒情なら、
春日八郎の声は実直な抒情
とでもいえようか。
ことばは意味を持っていますが、
このふたりの声は、
「はあああ」と発しただけで、
色や風景まで見えてくるから不思議です。
昭和は遠く。
・色づきていよよ父なる山笑ふ 野衾
・ブレス切れ転がり帰る春の海
十年にはなりませんが、
それにほどちかく、
知多半島に宿をとったことがありました。
病を得て、
七転八倒の末、
ようやく快方へ向かうか
と思われた時期で、
わたしは家人とふたり、
朝の爽快な気を吸うべく、
浜辺に下りゆっくり気功を始めたのでした。
と、
ぷちっと音がし、
目を開けると、
スギライトのブレスレットの糸が切れ、
紫色の石が砂浜に散らばりました。
白い砂の上に紫の小さな石たち。
拾おうとすれば
拾えたのですが、
ぱあっと散った紫色の石たちを見ているうちに、
そうか帰りたいのか、
と思われ、
海の水に引かれていくままにしました。
ときどき思い出します。
・三々五々公民館の春うらら 野衾
・春の風仕事忘るる心地せり
今週発売号の週刊朝日コラム「暖簾にひじ鉄」で
内館牧子さんが
拙著『石巻片影』を取り上げてくださいました。
「無力な子供たち」というタイトルで、
拙著の中から、
ツバメの子を撮った写真と文章、
石巻グランドホテルのロビー前でたたずむ少女の写真と文章、
その二つを具体例にし、
ちかごろ東京都昭島市で起きた凄惨な暴行事件と重ね、
「ヘルプレス(=無力)な人間の子は、
人間に育てられて初めて人間になる」
と結ばれています。
拙著に収められた写真はすべて橋本照嵩さんによるものです。
ありがたかったのは、
「多くの方々は「石巻」と聞くだけで、
震災からの復興の本だなと思うだろう。
そうではあるのだが、そうだとも言い切れない」
の文。
この震災は千年に一度ともいわれました。
それならば、
物心ついてから見聞きし、
学んできたことが、
この度のことと対峙し得るのか、
吹っ飛んでしまうのか、
吹っ飛んでしまったのなら、
また一から学び始めよう、
そのことを考えていたからです。
週刊朝日と併せ、
拙著を読んでいただければ嬉しいです。
・地下鉄や車中花粉の鼻爛漫 野衾
・鶯や目覚め寝床の薄明り
所用のため二泊三日で秋田へ行ってきました。
その折、
「うだっこ」の好きな両親へ聴かせようと、
三橋美智也が
昭和の歌謡曲をカバーした4枚組セットの内から
1枚えらび持参。
家に着いてさっそく掛けたところ、
案の定父は、
流れる歌に合わせて歌い始め、
相変わらずの美声に驚きもしましたが、
ななんと、
恥ずかしがり屋の母まで
口を開いて歌っているのです。
わたしが家にいた間、
5、6回は通しで掛けたでしょうか。
母がぽつりと曰く、
「このひとのこえ聴げば、めんどうみでもらえるような気がする…」
なるほど!
やさしい声というのなら分かる、
めんどうみてもらえるというのは尋常じゃない。
しかし、
天才美智也の声の評としては、
実に的確という気がしました。
・行き交ひの挨拶楽し春となる 野衾







