耳を育てる

 

高校の教師をしていたころ、準備する自分がたのしく、
教室の生徒がおもしろいと感じてくれるような授業をつくりたいと念じて、
いろいろ本を読みました。
大勢の人の前で話すことが少なくなった今、
どうなったかといえば、
本を読む時間は、あの頃と同じか、あるいはそれ以上かもしれません。
授業準備とちがうのは、
話をするための読書ではなく、
話を聞くための読書、にどうやらなっていること。
たとえば対談に臨む場合、
相手をしてくださる方が本の著者であれば、
その本を三回読んで、要点をメモし、
こういうことをお聞きしたいというプロットを事前に渡すようにしています。
いわば聞くための読書。
対談でなくても、
相手の話を聞くときに、
体験にもとづく土俵に登り、
体験を拠り所とする耳だけで聞くことも可能ですが、
話される内容に触れ、近接することを扱った本を事前に読んでいると、
理解のあり様が変る気がします。
学者・研究者ということであれば、
なおさらです。
仕事にかぎらず、
プライベートな対話でも、
向き合う相手の価値観の拠ってきたる深処に触れ、
的を外さぬためにも、
読書は有効であると感じます。

 

・冬の朝丘上の家の灯りかな  野衾