概論書について

 

概論書による教育を通じて得た〔学問的〕習性は、たとえそれが最良の状態でなされ、
いかなる欠点も伴わない場合でも、
それは、
広汎かつ長大な典籍の研究を通じて得た習性よりも劣るものである。
後者の場合には、
数多の反復や長期の勉学がなされ、
そのいずれもが完全な〔学問的〕習性の獲得に役立っているのである。
ところが
わずかの反復しかなされない場合には、
当然その習性も劣ったものとなる。
概論書による教育の場合も同じで、
学生が専門的知識をたやすく修得することを目的としているにもかかわらず、
有益でしっかりした習性を身につけることが妨げられているために、
かえって学問の修得を困難にさせているのである。
(イブン=ハルドゥーン[著]森本公誠[訳]『歴史序説(四)』岩波文庫、2001年、p.94)

 

イブン=ハルドゥーンは、1332年、チュニジアのチュニスに生まれました。
中世のイスラーム世界を代表する歴史家、思想家、政治家で、
岩波文庫に入っているのは、
タイトルにあるとおり、
「序説」であって、
書かれた『歴史』本編は、
この何倍もある膨大なものだとか。
滔滔とながれる人間の営みのあれこれについて、
ゆったりと、
それでいて細心のきめ細かな叙述が特徴であると感じられ、
歴史に名をとどめている人の思索の一端
を垣間見る気がします。
引用した箇所などは、
いまもまったく同様であるようです。

 

・読み止しの本の疑義問ふ書架の秋  野衾