ひとつの灯り
愛をほとんど経験したことがないとしたら、どうやって愛を選ぶことが出来るでしょうか。
機会あるごとに、愛の小さな一歩を踏み出すことで、
私たちは愛を選びます。
微笑み、握手、励ましの言葉、電話をかける、カードを送る、抱き締める、
心のこもった挨拶、助ける仕種《しぐさ》、注意を払う一瞬、
手助け、贈り物、財政的な援助、訪問、
これらのものはみな、愛に向かう小さな一歩です。
それぞれの一歩は、
夜の闇の中で燃えている一本のろうそくのようなものです。
それは闇を取り去ることはありませんが、
闇の中を導いてくれます。
愛の小さな歩みが残したたくさんの足跡をかえり見ると、
長くて美しい旅をしてきたことが分かります。
(ヘンリ・J・M・ナウエン[著]嶋本操[監修]河田正雄[訳]
『改訂版 今日のパン、明日の糧』聖公会出版、2015年、p.213)
『傷ついた癒し人』という本も書いているナウエンは、
オランダ出身のカトリックの司祭で、
1996年に64歳で亡くなっています。
ナウエンのものを読んでいると、
いろいろインスパイアされますが、
引用した箇所を読んだとき、
すぐに、
宮沢賢治の、
「わたくしといふ現象は/仮定された有機交流電燈の/ひとつの青い照明です」
で始まる詩集『心象スケツチ 春と修羅』の「序」
を思い出しました。
つづく言葉は、
「(あらゆる透明な幽霊《いうれい》の複合体)/風景やみんなといつしよに/
せはしくせはしく明滅《めいめつ》しながら」
そして、
第一連の最後は、
「(ひかりはたもち その電燈は失はれ)」
賢治を媒介にしてナウエンを読み、
また、
ナウエンを媒介にして賢治を読むことで、
ふたりの心象スケッチが、
エコーし合いながら、
明滅しているようにも感じます。
・鎖樋まどろみつたふ梅の雨 野衾