これもそうとうふるい記憶。まだ小学校に上がっていないころのはなし。
祖母につれられ、バスで五城目町に行きました。
井川町(当時はまだ村)の北側・新間(あらま)を過ぎると家並みがとぎれ、
しばらく行くと五城目町に入ります。
右手に食べものの店があり、左手に畳店、道はみじかく下り坂。
車窓からの風景はいつもたのしい。
ほどなく、橋の手前の停留所でバスを降ります。
そこにも小さな店。
バスが発車するのを待ち、祖母の後をついて道の反対側にわたります。
そこに目的の家がありました。
わたしの家のような農家ではありません。
それほど大きな家ではありませんでしたが、家のたたずまい、家具、
対応してくれた女性、家のなかの空気まで、
子どもごころに、
どことなく、なんとなく、裕福な家、という感じがしました。
女性の白髪は、
すこしむらさきがかっていた気がします。
祖母の血筋の女性が嫁いだ先だったのかもしれない。
祖母としたしく話をしていました。
わたしはひとことも発しません。
白髪の女性からなにか声をかけられたかもしれないけれど、なにを言ったか、
どう答えたか、おぼえていません。
ただ、帰りがけにおカネをもらったと思います。
きれいな家を出てバスを待つあいだ、
橋の近くまで歩き、
滔々とながれる川の景色をしばらく見ていた。
ありふれていた気もするその景色を、
おとなになってから一度ならず夢に見たことがあります。
大水が氾濫し、
川幅がいつもの二倍から三倍ほどに広がっている。
ずっと後になって、その家のことを父にたずねたことがありました。
材木かんけいの仕事で財を成した、
というようなことだったと思います。
ふるいふるい記憶です。
・ベランダのシーツ反転夏の風 野衾