さまざまのこと 25

 

これもそうとうふるい記憶。まだ小学校に上がっていないころのはなし。
祖母につれられ、バスで五城目町に行きました。
井川町(当時はまだ村)の北側・新間(あらま)を過ぎると家並みがとぎれ、
しばらく行くと五城目町に入ります。
右手に食べものの店があり、左手に畳店、道はみじかく下り坂。
車窓からの風景はいつもたのしい。
ほどなく、橋の手前の停留所でバスを降ります。
そこにも小さな店。
バスが発車するのを待ち、祖母の後をついて道の反対側にわたります。
そこに目的の家がありました。
わたしの家のような農家ではありません。
それほど大きな家ではありませんでしたが、家のたたずまい、家具、
対応してくれた女性、家のなかの空気まで、
子どもごころに、
どことなく、なんとなく、裕福な家、という感じがしました。
女性の白髪は、
すこしむらさきがかっていた気がします。
祖母の血筋の女性が嫁いだ先だったのかもしれない。
祖母としたしく話をしていました。
わたしはひとことも発しません。
白髪の女性からなにか声をかけられたかもしれないけれど、なにを言ったか、
どう答えたか、おぼえていません。
ただ、帰りがけにおカネをもらったと思います。
きれいな家を出てバスを待つあいだ、
橋の近くまで歩き、
滔々とながれる川の景色をしばらく見ていた。
ありふれていた気もするその景色を、
おとなになってから一度ならず夢に見たことがあります。
大水が氾濫し、
川幅がいつもの二倍から三倍ほどに広がっている。
ずっと後になって、その家のことを父にたずねたことがありました。
材木かんけいの仕事で財を成した、
というようなことだったと思います。
ふるいふるい記憶です。

 

・ベランダのシーツ反転夏の風  野衾