小学校の行き帰りに、知ってはいるけれど、その道を行くとどこへ行くのだろうと、
先が分からない道がありました。
わたしの家を出て、集団登校で学校へ向かう道は、
仲台からはじまって坂道をくだり、寺沢から葹田(なもみだ)へと至る。
小学校は葹田にありました。
と、
学校をちょっと過ぎたところから横へ入る小道があることは知っていて、
全校一斉の写生会の折などに、すこし入り込むことがありました。
が、
その道の方角に、遊ぶ友だちはいなかったし、
親から用事を言いつけられることもなかったしで、
その道をちゃんと歩いて、
それがどこへ通じているのかを確かめることなく来てしまいました。
その道をとおって学校へ来る一年先輩の髪のながい色白の
おとなしそうな女子がいました。
名前も分かりませんでしたが、写生会の折にでも、
その子がその道を歩いて帰る姿を目にしたとか、そういうことでなかったかと思います。
話したことなどもちろんなく、名前も知らぬひとですが、
道の先が分からないことと重ね、
美しいひととして、わたしのなかにずっと居つづけています。
二年前になるでしょうか、
帰省した折、
晴れた日に家を出て、
あたりの景色を目で触れるように眺めながら歩きました。
寺沢を過ぎ葹田へ。
道の左手にあった小学校の建物はすでになく、夢の跡を風が吹きすぎます。
さらに歩いて、知ってはいても
ちゃんと歩いたことのない道をはじめて歩きました。
光がさんさんと降りそそぎ、
あいまいなところのない道がしずかに蛇行しています。
左手は田んぼ、右手の家々はやがて終り、草深いみどりが丘になっています。
時間の霧が晴れていき、きらきら輝くようでした。
道は上りにさしかかり、
息を切らして登っていくと、ようやく知っている道へと至ります。
わたしのなかの二次元の地図は完成しました。
しかし、一年先輩の女子がかよった四次元の美しい道は、
そのままの印象として、
これからもつづくことになりそうです。
・待ち人を待つ心地して夏燕 野衾