『アラビアンナイト』の魅力

 

古典古代の文学作品との類似点に注目すれば、
「シンドバッド航海記」中に
ホメロスの「オデュッセウス」とよく似た場面が描かれていることは
かねてより指摘されてきた。
また、
アラビアンナイト中には、
ローマの劇作家プラウトゥスの作品に出てくるプロットと
まったく同じものが登場する話もあれば、
ヘロドトスが記録した泥棒のエピソードとよく似た話もある。
なお、
このヘロドトスによる泥棒話は『今昔物語』にも収録されている。
インドやギリシア以外にも、
古代オリエントの叙事詩「ギルガメシュ」からの影響も指摘されているし、
コブト教徒を通じて伝わったと思われる古代エジプトの話もある。
ソロモン王伝説をめぐるユダヤ系の話もあれば、
ビザンツのロマンス(恋愛物語)から影響を受けたと思われる部分もある。
時代をくだれば、
ボッカチオの『デカメロン』、
チョーサーの『カンタベリー物語』などにも
アラビアンナイト中の物語と非常によく似た話が入っている。
また、
羽衣説話の系統に属する話(「バスラのハサン」)
のように、
世界中の民話や口承の中に類型を求めることができるものもある。
アラビアンナイトに含まれている個々の物語の発生場所や伝播経路を確定する
ことは困難だが、
この一大物語集はまさに東西説話の宝庫であるといえるだろう。
(西尾哲夫『アラビアンナイト――文明のはざまに生まれた物語』岩波新書、
2007年、pp.39-40)

 

『アラビアンナイト』の魅力を、これでもかというぐらいに、
さまざまな角度から縦横に論じ、紹介してくれてあり、
ふんふん、
うなずきながら、
おもしろく読み終りました。
前嶋信二さんがアラビア語原典(カルカッタ第二版)
から訳された『アラビアンナイト』
(平凡社の東洋文庫に収められている。全18巻。前嶋さんは第12巻まで。
第13巻目以降は、池田修さん。ほかに別巻あり)
が六巻目までで中断しているので、
しばらくあいだが空いてしまいましたが、
ぼちぼち七巻目を開こうかと思っているところであります。
こんかい読んだ西尾さんの本で目から鱗だったのは、
『アラビアンナイト』が、
とくていの誰かが書いた物語というよりは、
東西交流の文化現象とみる方がいいだろうとのご指摘でした。
もともとアラビア語で「物語」を意味するヒカーヤ
という言葉は、
本来、物真似芸を表すそうです。
ちいさいことは気にしない、
おもしろければ何でもいいじゃん、
という伸び伸び広々したところにつよく惹かれます。

 

・新緑や海の青さをあくがるる  野衾