老いのイニシエーション

 

稀代の演出家にして我が恩師である故・竹内敏晴の本に『老いのイニシエーション』
がある。
春風社を起こす前、
前の出版社に勤めていたころ、竹内さんから直接いただき、
もらってすぐに会社で読んだ記憶がある。
イニシエーションとは、
通過儀礼のこと。
老いることにも節目があるということか。
舞踏の土方巽の享年が57。野口整体の創始者・野口晴哉の享年が64。
もう一人、二人、
挙げられていたかもしれない。
竹内さんも還暦の頃に大けがをされ、
生のリズムが六十を境に大きく変化したことを印象深くつづっていた
と記憶する。
竹内さんに電話し、お礼と感想を述べた。
六十を過ぎて再婚したこと、新しいいのちが授かったこと、
また、三人家族のなかで右往左往する竹内さんのこっけいな姿が描かれており、
読みながら声を出して笑った箇所もあったから、
そのことを正直に申し上げた。
すると、
竹内さんは、
その感想をとても喜んでくれ、
あの本を読んで笑ってくれたのは、
君ともう一人、
二人だけだとおっしゃった。
わたしには、
竹内さんの姿が、演劇でいうところのクラウン、
道化役の立ち居振る舞いと重なったので、
その印象も口にした。
それは、
書き手である竹内さんの意図とひびくところがあったのだろう。
生の深刻さと滑稽さ、
三十代で読んだ本のことを今思い出しているのは、
わたしが実人生でその時期に差し掛かったからなのだろう。

 

・うららかや心ばかりが闊歩する  野衾