世界という散文

 

だから世界の相貌は、紋章、文字、暗号、晦冥な語
――ターナーによれば「象形文字(ヒエログリフ)」――
によって覆われるのである。
かくして直接的類似の空間は、
開かれた大きな書物のようなものとなる。
そこには無数の文字記号(グラフイスム)がひしめきあい、
ページ全体をつうじて、奇妙な形象が交叉し、
ときには反復されるのが見られるのだ。あとはそれらを解読するだけでよい。
(ミシェル・フーコー[著]/渡辺一民・佐々木明[訳]
『〈新装版〉言葉と物 人文科学の考古学』新潮社、2020年、p.51)

 

後漢の許慎(きょしん)の手になる最古の漢字辞典『説文解字』
の成立が西暦100年。
白川静の『漢字の体系』が上梓されたのが2020年。
『漢字の体系』では約1800字について、
すべて『説文解字』の説明と白川さんの説明が対比されており、
漢字が単なる記号を越えて、
漢字そのものが、
漢字成立に至るまでの当時の世界観、宇宙観を表すものであると納得する。
まさに本はタイムマシン。

 

・春泥の足指まつかをぬるりかな  野衾