一所に住まない放浪する民が日本に居たことを知ったのは、
五木寛之の『戒厳令の夜』
を読んだのがきっかけでした。
興味の湧きついでにさらに五木の『風の王国』
を読み、
さらに知りたくなって三角寛の書に手を伸ばす、
そういう時期がありました。
もう三十年以上前のことになります。
時も時、
一所に住まぬ放浪の民サンカを取り上げた映画が上映されることを知り、
なになにっ、と目を剝き、
なにを差し置いても見なければと思い、
見ました。
三十年以上前のことですから、
物語は薄靄につつまれたような具合ですが、
萩原健一扮する男と藤田弓子扮する女の滝の前でのセックスシーンは、
忘れられません。
衝撃でした。
わたしの記憶では、
キャメラは、
滝を正面から見上げるように遠望する位置であったかと。
したがって男と女の交接は、
自然の中の自然の行為とも感じられた。
女のバックから迫るとき、
萩原健一は、
山と水、取り巻く自然の光景に、ほんの短い時間、
目を向け、
それからやにわに実事に向かう。
女はのけぞる。
滝の音にかき消され、
にんげんの一切の言葉は聴こえない。
映画のタイトルは
『瀬降り物語』。
映画館から外へ出たとき、
魂の底が抜けちまって、
ふらつきながら、
アパートまで帰ったのではなかったかと思います。
・春寒や商店街の人まばら 野衾