あるじなしとて

 

国道一号線の裏通りに住んでいらっしゃった老夫婦が、
少し離れた
(といっても、ゆっくり歩いて五分とかからない)
マンションに引っ越しをされました。
以前はよくお目にかかり挨拶をしていましたが、
少し離れただけで、
(そうか。コロナのせいもあるか)
ここのところお目にかかっていません。
そのご夫婦のことを思い出したのは、
先月二十八日の帰宅時、
静かな裏通りを歩いていたら、
不意に沈丁花の香りがし、立ち止まったことがきっかけ。
そうだ、ここに沈丁花があった。
そうか。
老夫婦が住んでいた家は壊され、
その後あたらしい住まいが建てられましたが、
沈丁花はそのまま元の場所にあって、
なつかしい香りを届けてくれます。

 

・宵闇にわたしここよと沈丁花  野衾