古代の社会は、ある意味では巫術(ふじゅつ)の社会であった。
すべてのものに霊があり、
互いに感応し、影響する関係があって、
つねに識(し)られざるものの攻撃に備え、
その攻撃を打破しなければならぬという状態にあった。
そのような事態に対応する方法は巫術であった。
その巫術的な世界をどの程度に理解するかは、
古代文字の理解の一の関鍵(かんけん)となる。
そのような世界観への理解がなくては、古代の文字の理解は不可能である。
(白川静『漢字の体系』平凡社、2020年、p.188)
白川さんが遺作のようにして書いた『漢字の体系』。
一文が短く、
漢字に籠められている精神を後世に伝えたい
との気迫が各所に感じられる。
白川漢字学のエポックは、
なんといっても「サイ」
(「口」に似ているが、「口」でなく。パソコンで入力しても出てきません。
祝詞を入れる容器を表す。
「口」の縦棒二本が、上の横棒の端から少し上にはみ出している)
の発見だと思われるが、
そのことを含め、この本では、
漢字の由って来たるところが体系的に説明されていて面白い。
ここに東洋の祈りの淵源があると思われる。
・眺むれば今あけぼのと山笑ふ 野衾