・葉桜や社に拝む女あり
「えええっ! ほんとおお!?」
若女将が上ずった声でお客さんと話しています。
いつもにこにこ物やわらかく、
穏やかな彼女の
そんな声を聴いたのは初めてです。
ちょっと黄色い声も混じっているような。
テロか?
野毛でテロ!?
パチンコ屋が襲われたとか、
横浜にぎわい座に爆弾が仕掛けられたとか、
そんなこと?
お客さんから離れ、
厨房へ戻る若女将に声をかけました。
「なにかあったんですか?」
「ちぐさにしょうくんが来ていたんですって」
「ちぐさって、そこの?」
「ええ。ジャズ喫茶のちぐさ。会いたかったわ」
「しょうくん?」
「嵐の櫻井翔くん。会いたかったなぁ」
「ファンなんですか?」
「娘が嵐の大ファンで、とくに櫻井翔くんが」
「若女将もそうなんですか?」
「いえ、わたしはまつじゅん」
「ああ、なるほど。まつじゅん」
「でも、翔くんにも会いたかった」
「そうですか。えぇっと。と。いつもの裂き定と奈良漬けください」
・葉桜や風の流れを見てゐたり 野衾