痒いのか

 

・春なれば声も眠たし烏かな

『マハーバーラタとラーマーヤナ』の
下版前最終チェックのため、
亜細亜大学に行ってきました。
無事チェックが終り、
JR武蔵境駅から快速の東京行きに乗車。
三鷹駅で中央快速に乗り換え。
こちらが停車駅が少なく新宿まで早く着きます。
新宿で湘南ラインに乗り換え。
待っている時間がほとんどないのも珍しく、
順調かつ快調。
渋谷で降りる客が多く、
空いたシートに座りました。快調。
春の陽気はのたりのたりで、
鞄のなかの『ファーブル昆虫記』を取る気になれず。
ついうとうとと。
と、
目を開けるとすぐ目の前に、
学生でしょうか、
いや学生ではないでしょう、
OL風の若い小柄な女性が立っています。
微妙に体をくねらせ、
電車の振動とちがう動きをしています。
両膝を交互に緩めたり伸ばしたり。
両肩が膝に連動しているような、いないような。
ん!?
だんだん眼が覚めてきました。
ひょっとして。
いや、そんなことはないか。
でも…。
わたしは最初、
彼女が背中のどこかが痒くて動いているのかと思いました。
むず痒がっている動きそのものなのです。
『ファーブル昆虫記』にでてくる蜂の幼虫みたい。
もぞもぞもぞもぞ。
痒みはいっこうに止みません。
おかしい。
痒みがそんなに続くわけがない。
わたしは、
姿勢を正して腹の角度を鈍角にし、
彼女との距離をとり、
全身を視野に入れました。
したら、
彼女の耳にイヤホンが装着されていました。
は。
そうか。
なるほど。
痒くて動いていたわけではなかったのか。

・友もありさうざうしきは春日かな  野衾