ホーリー・モーターズ

 

・種蒔きを終へて眠りの安らけし

日ノ出町にある映画館ジャック&ベティで、
レオス・カラックスの新作
「ホーリー・モーターズ」を観てきました。
レオス・カラックスといえばドニ・ラヴァン。
今回の映画でも彼の魅力は遺憾なく発揮され、
最後まで楽しむことができました。
白いリムジンに乗ったドニ・ラヴァン演じるオスカーが、
依頼主からの指示を受け、
あるときは富豪の銀行家、
あるときは殺人者、
またあるときは物乞いの女、怪物など、
その日一日のミッションを次つぎに果たして行きます。
どこまでが現実でどこからが虚構なのか、
定かではありません。
オスカーは、
ミッションを忠実に、
また滑稽にまた哀しく果たして行きますが、
見ているうちに、
これは人生の比喩であると気づきます。
長い一生が一日に凝縮している。
オスカーは少々疲れているようです。
予定されていたミッションを終え、
オスカーがリムジンから降り、
運転手から今日のおカネと鍵を渡され、部屋に入っていく。
なぜ「今日の」と但し書きが付くのか。
自分の家ではないのか。
これもまた「自分」を演じる虚構なのか。
自分の家でないとしたら、
自分が自分でいられるのはどこなのか。
オスカーが鍵を開け、
ドアを開けたとき、
彼を迎えたものの存在に意表を突かれます。
と、
リムジンが表象するものの意味が
次第に明らかになってきます。
最後のシーンの
リムジンたち(!)の会話が秀逸。
静かで豊かな問いに充ちた、
おしゃれな映画を観せてもらいました。

・弟も手伝ひ年の種を蒔く  野衾