静日

 

 五十鈴川神を宿して水温む

電話がかかってきたり、
こちらからかけたりすることもたびたびですが、
総じてとても静かな一日でした。
机に向かって原稿を読んでいると、
他に人が居ないように思える瞬間もあり、
おや? と思うのですが、
ゲラをめくる音が聞こえてきますから、
やはり人は居ます。
集中の気が充ちているのでしょう。
東京商工リサーチの調査によると、
出版社の倒産数は昨年が72で、
平成始まって以来の記録となりました。
安閑としているわけにはいきませんが、
日々の仕事を着実にこなし、
人様に喜んでいただける本作りを続けたいと思います。
ライターの森王子(玉子でなく)さんが書いてくださった
記事がミシマ社のミシマガジンに掲載されました。
春風社の仕事についてのインタビュー記事です。
こういう方向へ行きなさいと、
仕事から教えられます。

 黒松や新芽萌え出で神を待つ

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今週は

 

 杉古木おかげ参りの弥生かな

今月は、春風社始まって以来の刊行点数になりますが、
今週ですべて下版しなければなりません。
印刷所に版下やデータを渡すことを下版(げはん)、
または降版(こうはん)といいます。
途中、印刷所から送られてくる白焼き
(正式の印刷に付す前の試し刷りのようなもの)を
チェックしなければなりませんが、
あとは本が出来てくるのを待つしかありません。
ホームページ上の新刊の表紙も大幅に交代します。
乞う、ご期待!

 健康に勝る宝なし伊勢神宮

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ケンチャナヨ

 

 ふみ待ちてそわそわ顔の弥生かな

今月末刊行予定の『釈譜詳説』(上)のチェックのため、
昨日も河瀬先生にお越しいただき、
結局、四日連続でお運びいただいたことになる。
天才多聞くんの天才ぶりが今回も遺憾なく発揮され、
ほれぼれする装丁のラフができた。
先生の奥様もたいそう喜んでくださったそうだ。
ラフの紙を撫でさすりながら、先生は、
韓国の人はきっと驚くだろうとおっしゃった。
韓国では、本を作るのにそんなに凝らないらしい。
自前で紙を出力し、束ねて糊付けし、
それで本を出しましたというようなイメージがあるという。
以前、『僕の解放前後 1940-1949
(柳宗鎬(著)/白燦(訳)/太田孝子(日本語校閲))ができて、
韓国の原著者に送ったとき、
柳先生は、日本の本作りの技術をいたく褒めてくださった。
アメリカの場合も、ペーパーバックで代表されるような、
割りと簡易な製本が多いのかもしれない。
本を情報として読む文化と、
そうでない文化の違いがあるような気もする。
情報として本を読む文化が一般的な地域では、
電子ブックへの移行が速やかに行われるだろう。
韓国語で「気にしない」ことを、ケンチャナヨと言うそうだ。
ケンチャナヨ、ケンチャナヨ。
気にしない、気にしない…。
気にしないことがいいのか、気にすることがいいのか。
善し悪しの問題でなく、
本作りに対する意識の違いがあるようにも思える。

 春風や朝日とともに匂ひけり

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撫でさする

二階の子見ぬ間にデカくなりにけり

今月末刊行予定の『釈譜詳節』(上)のチェックのため、
三日連続で、訳者の河瀬先生にお越しいただいた。
『釈譜詳節』は十五世紀、
ハングルが発明されると同時に
ハングルによって記された釈迦伝であり、
韓国仏教の粋、
韓国文学の古典中の古典とされるものである。
河瀬先生は、
高校で国語を教えながら独学で韓国語をマスターし、
定年前に勤め先の高校を辞し、
韓国の東国大学大学院に入学、韓国仏教を勉強されてきた。
今回の翻訳は、その成果でもあるわけだが、
わたしはこの訳業を休日、少しずつ読んできた。
静かな心で集中して読みたかったからだが、
その過程で、この仕事が大変な偉業であることに
だんだんと気づかされた。
『新井奥邃著作集』を出すときの興奮がよみがえった。
昨日、忙しい多聞君に無理をお願いし、
装丁の最終バージョンをメールで送ってもらった。
出力して先生にお見せすると、
先生は、それを撫でさするようにして、
しばらく眺めていた。
わたしは、その様子を多聞君に伝えた。
社員一同も、先生のお人柄に触れながら、
協力し、仕事の醍醐味を味わったはず。
ありがとうございました。

なつかしき人に会ひたき弥生かな

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ぶり返し

 

 如月や三十年をひとまたぎ

二月も終りになって、いよいよ暖かくなり、
早咲きの沈丁花の香りに驚き、
ダウンジャケットを脱ぎ、
股引を脱いで、
春の態勢に入ったと思いきや、
今週はまた冬に逆戻りし、
外へ出ると吐息が白くなる日がつづいています。
三歩進んで二歩下がるみたいにして、
暖かくなっていくのでしょう。
会社の仕事は、今週来週が剣が峰。
集中して登りきろうと思います。

 股引を脱いだり穿いたりしている

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塞ぎの虫

 

 ふるさとの友と訛りを楽しめり

たまに塞ぎの虫がやってきて、
そのときは、
道の端をとぼとぼと歩くしかありません。
塞いでいるときは、
だいたい下か、斜め下を向いて歩いていますから、
クルマが来たら危険です。
ですから、端に寄って歩きます。
先日、道の端を歩いていましたら、
いきなり
ヘ~クショイッ!!
と、途方もない声が聞こえました。
ドキッとし、顔を上げ振り返って見たら、
そんなに年でもない女性でした。
その女性、ヘ~クショイッ!! のあと、
小声でチクショーとまで言ったかもしれません。
気が付いたら、わたしは少し笑い、
塞ぎの虫はしばらく鳴りを潜めていました。
女性はフルハウスに入っていき、
JR横須賀線の下り電車が轟音をたてて、
カーブを走り抜けていきました。

 道の端塞ぎの虫をくしゃみかな

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I君

 

 高架下頭刈って弥生かな

高校の同期で、陸上部でもいっしょだった
I君から会社に電話があり、
土曜日、保土ヶ谷の自宅を訪ねてきてくれました。
二十数年ぶり、三十年ちかく間が空きました。
学部はちがいますが、大学もいっしょ、
下宿も歩いて二、三分のところに間借りし、
しょっちゅう往ったり来たりの仲でした。
二人とも負けん気が強く、
ジョギングやビリヤードをするとき、
「これはあそびだから。ね。ね」と
お互いに確認して始めるのですが、
最後はいつも真剣勝負の様相を呈し、
一度など、ジョギングのはずのゴールが
短距離のフィニッシュみたいになり、
へたばって二人とも大学の講義を
サボったこともありました。
酒好きが嵩じて、一昨年、
I君はメタボの指定を受けたそうですが、
これではならじと心機一転、
自宅のある南浦和から東京までの二十数キロを
歩いたりしているそうです。
愉快な友達です。

 ふるさとの友ひさびさに春の宵

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