負けない!

 

 インフル菌マスクせずに手で払ふ

保土ヶ谷駅9時17分発横須賀線上り電車に、
だいたいわたしは乗ります。
日によって前後にズレますが、いちばん多いのがこの電車です。
最後尾の車両の横浜寄りのドアから乗り込みます。
なので、そのドアが停まる前に並びます。
なぜそこかといえば、横浜で電車を降りたとき、
階段のすぐ横へ出られるからです。
サラリーマンはみんな、
最寄り駅の階段やエスカレーターに近いドアを知っていて、
車内でも、その付近に陣取っているのでしょう。
先日、電車が横浜駅に到着し、ドアが開き、
わたしはホームへの第一歩を踏みだしました。
ちらと横を見ると、一瞬、どのドアから飛び出す足よりも、
わたしが早かった! ふふふ…(こころの声)
そのまま、準決勝までのボルトよろしく余裕をかまし、
トコトコトコと階段を下りていると、
右手後方から、ニワトリでもあるまいに、
コッコッコッコッと凄い勢いで足音が近づいてくるではありませんか。
足音の主を確認すべく体をひねりました。
背の高い若い女性が髪を振り乱し、なりふり構わず駆け下りてきます。
やばい! と思いました。
思うよりも先にわたしの足は素早く階段を下り始めます。
なにをっ!
ほとんど横一線です。弟には敵わなかったけれど、
おれも陸上部だったんだ!
なんてことまで頭をよぎり、もう必死。
タッタッタッタッタッタッ……
ゴール!!!
だははははは…。あははははは…。
おいらが一瞬早かった!
勝ったー! 勝ったどー!!!
空しい。なぜか、空しい。
女性はと見れば、わたしの歓喜をよそに、すでに改札口に向かっています。
もはや急ぐ必要はありません。
わたしはゆっくり京浜東北線の下りホームに向かいました。
しばらく肩で呼吸をしました。
冷静になってみると、
五十男のすることではない気もしてきました。

 冬の日のシナトラさらに軽やかに

091204_1920~0001

穴が無い!

 

 初霜や我れの湿気を吸ふて立ち

自宅の天井と壁の珪藻土塗りがようやく終りました。
終って、事前に外しておいた電気のコンセントを取り付けようとして、
上手くいかない箇所があります。
だいたいは、こちら側からネジをねじ込むための穴が
ちゃんとあるのですが、それの無い箇所があります。
穴が無ければ、金具をネジで留めることは出来ません。
上手くいかないところを後に回し、いくつか取り付けているうちに、
気づいたことがありました。
というのは、コンセントが設置されている石膏ボードの裏側は
空洞になっていて、どうも、コンセントを取り外す際に、
裏側の金具がその空洞の暗闇に落ちたものと思われます。
手を、入るだけ入れてつかもうとするのですが、
指先に当たったのも束の間、さらに深い闇にまぎれていくようです。
割り箸を三分の一のところで離れないように折ってやってもみたのですが、
とんと巧くいきません。
落ちた金具様のものだけ売っているということがあるだろうか。
あればいいなぁ…。
電気屋を頼むしかないかと諦めつつ、近くの電器店へ行き、
奥さんに状況を説明していたところ、
階段をタンタンタンと下りてきた旦那さんが、
「だいたい分かりました。落ちた金具はC型と呼ばれるものでしょう。
C型ではありませんが、サイズに関係なく取り付けられる
こういうものがあります。これで試してみてください。
それで駄目だったら伺いましょう」
1セット150円の金具を2セット買い、いそいそと家に持ち帰り、
教えられたことを忘れないうちに、
さっそくドライバーで取り付け作業にかかりました。
ななんと、ぴったりきつく取り付けられたではありませんか!
凄い! 人間の知恵は凄い!(大げさか)
こんなものが世の中にあればいいのになぁと思えば、
ちゃんとそういうものが存在しているのです。凄い!
密かな発見に、ちょっぴり驚き幸福感に浸りました。
同じような発見がもう一つありました。
それは、家具すべ~る!

 初霜や大下敷きで集めたし

091204_1325~0001-0001

うんどう違い!?

 

 冬空や何の運動?煮たうどん!

父が小学生の頃、クラスに
いつもおどおどしている少年がいたそうです。
何かの授業のとき、先生がその少年に声を掛け、
「君は何の運動が好きだ?」と質問したそうです。
すると、おどおどした少年は立ち上がり、おどおどと、
「はい。ぼ、ぼ、ぼ、ぼくは、煮、煮、煮たうどんが好きです!」
と答えたそうです。教室は爆笑の渦。
少年、よほど腹が減っていたのでしょう。
先生一喝、「笑うな!」
父から何度かそのエピソードを聞かされました。
父は、話すたび赤い顔をさらに赤くして笑います。
よほど可笑しかったのでしょう。
顔全体が「笑」という字になっている父の姿が目に浮かびます。
どうしてこのことを思い出したのかと反省したら、
きのうの昼、鍋焼きうどん大盛りを食べたからだ
ということに気が付きました。
おどおどした少年と同じく、
わたしも似たうどん、いや、煮たうどんが好きです。

 アスファルト濡れて千切れし冬の月

091126_1718~0001

風船

 

 保土ヶ谷駅まんまる冬の月見蕎麦

また夢を見ました。
編集長ナイ2が「この本、凄いですよ」
テーブルの上に大判の本があって、
どうもその本のことのようです。
開いてみました。
すると、どのページにもいろんな風船が描かれています。
少し透けているような、手で触れるような、
実にリアルな風船です。
ナイ2君は、にこにこしながら黙っています。
不思議にリアルな風船だなあと見ているうちに、
本の縁(へり)から食み出して、浮き出て見えます。
そうか。浮き出る絵本なんだ!
3Dのメガネで見ているような感じです。
つい手を伸ばして触ってみたくなります。
それで、手を伸ばし、つかむようにしました。
つかもうとすると、つかむことはできなくて、
そこは3Dメガネで見るのといっしょですが、
何度か手のひらを握ったり開いたりしているうちに、
それまで描かれた絵と見えていた風船の感触が
たしかに指に伝わってきました。
思わず、風船を放ってしまいました。
風船はふわりふわりと、床にバウンドしています。
へー! これは凄い!
ナイ2君の顔を見ると、「でしょ」
そうか。このことだったんだ。
本のなかから次々風船が飛び出して、
あちこちシャボン玉のようにバウンドしています。
わたしは、この風船たちを本に戻すにはどうするんだろう、
などと要らぬことを考えていました。

 駅蕎麦のつゆを残して冬の月

091129_1035~0001

バッグが無い!

 

 基督の我を立たしむ冬となり

夢を見ました。
仕事の打ち合わせにでも行くのか、
専務イシバシ、武家屋敷と三人で出かけました。
バス停で待っていると、程なくマイクロバスがやって来ました。
このごろはバスに乗る人が減ったのか、
路線バスもマイクロバスが多くなりました。
蛇腹式のドアが開いて、順に乗り込みました。
席は全部塞がっています。
わたしは吊り革に捕まりました。
イシバシは、一人がけの椅子の背に捕まっています。
武家屋敷は背伸びして吊り革に。
二人を相手に、わたしは今日の流れについて
もう一度念押しするようです。
少々テンションが上がってきました。
仕事を決めなければなりません。
外の景色を見、気分は上々、うきうき、うっきーきー。
その時でした。
あれ!?
バッグが見当たりません。無い! 無い!
棚の上にも足元にも、どこを探してもありません。
だんだん焦ってきました。
すべての棚の上、乗客たちの足元、つぶさに眺めましたが、
ありません。出てきません。
イシバシも武家屋敷も探してくれましたが、やっぱり出てきません。
バスは発車してからまだ一度も停留所に停まっていませんから、
だれかがバッグを持って降りたということは考えられません。
客たちと目が合いました。よく見ると、若い者は一人もなく、
老人ばかりです。
皺のせいで見分けが付きませんが、わたしを、
皆わらっているようにも見えます。
最後部座席に座っている男が、
「こんなようなバッグですか?」と、声を掛けてきました。
「ええ、まぁ…」と、こころここにあらずの返事をしましたが、
わたしのバッグとは似ても似つきません。
乗り合わせたこの老人たちの悪意の総体が
わたしのバッグを隠してしまったのだと確信しました。
能天気にウキウキしたことが彼らの恨みを買ってしまったのだ。
バスを降りたらすぐに電話して、カードを止めなければなりません。
一日が急に暗雲垂れ込めたものに変貌していくようでした。

 タコホタテ海の底よりおでんかな

091128_1712~0002

バランスチェアと百人一首

 

 大鍋にぷかりぷかりのおでんかな

ノルウェーが生んだ傑作椅子バランスチェアを、
近所のひかりちゃん、りなちゃんもつかっています。
「も」というのは、春風社の面々が毎日つかっているからです。
ひかりちゃんは小学六年生。
ことばに興味があるらしく、以前寅さんの
啖呵売(たんかばい)のせりふをおしえたら、
あっという間に覚えてしまって、
学校で友達といっしょに唱和して楽しんだことがありました。
ひかりちゃんは川柳も上手です。
このごろは百人一首にハマっていて、
先日、あるお寺で百人一首の大会がありました。
パパがクルマで連れて行ってくれたそうです。
二百人ちかい参加があったのだとか。
真剣に札を見つめて背中を丸くしている中に、
ただ一人、背筋をピンと伸ばして札に向かう少女がいます。
ひかりちゃんです。
その話を後から聞いてうれしく、また、愉しくなりました。
バランスチェアの効果覿面!
いま育ち盛りのひかりちゃんが、背丈とともに、
内面をどんな風に育てていくのかたのしみです。
自分を育てるのは、だれでもない、自分ですから。

 お寿司よりこころほっこりおでんかな

091121_1222~0001