負けない!

 

 インフル菌マスクせずに手で払ふ

保土ヶ谷駅9時17分発横須賀線上り電車に、
だいたいわたしは乗ります。
日によって前後にズレますが、いちばん多いのがこの電車です。
最後尾の車両の横浜寄りのドアから乗り込みます。
なので、そのドアが停まる前に並びます。
なぜそこかといえば、横浜で電車を降りたとき、
階段のすぐ横へ出られるからです。
サラリーマンはみんな、
最寄り駅の階段やエスカレーターに近いドアを知っていて、
車内でも、その付近に陣取っているのでしょう。
先日、電車が横浜駅に到着し、ドアが開き、
わたしはホームへの第一歩を踏みだしました。
ちらと横を見ると、一瞬、どのドアから飛び出す足よりも、
わたしが早かった! ふふふ…(こころの声)
そのまま、準決勝までのボルトよろしく余裕をかまし、
トコトコトコと階段を下りていると、
右手後方から、ニワトリでもあるまいに、
コッコッコッコッと凄い勢いで足音が近づいてくるではありませんか。
足音の主を確認すべく体をひねりました。
背の高い若い女性が髪を振り乱し、なりふり構わず駆け下りてきます。
やばい! と思いました。
思うよりも先にわたしの足は素早く階段を下り始めます。
なにをっ!
ほとんど横一線です。弟には敵わなかったけれど、
おれも陸上部だったんだ!
なんてことまで頭をよぎり、もう必死。
タッタッタッタッタッタッ……
ゴール!!!
だははははは…。あははははは…。
おいらが一瞬早かった!
勝ったー! 勝ったどー!!!
空しい。なぜか、空しい。
女性はと見れば、わたしの歓喜をよそに、すでに改札口に向かっています。
もはや急ぐ必要はありません。
わたしはゆっくり京浜東北線の下りホームに向かいました。
しばらく肩で呼吸をしました。
冷静になってみると、
五十男のすることではない気もしてきました。

 冬の日のシナトラさらに軽やかに

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