うれしかったこと

 

 遠来の客に注ぎ足す冬ビール

先週日曜日にひらかれたトークイベントで
おしゃべりしたあと、
しばらく休憩時間がありました。
そのとき数名の方が『出版は風まかせ』を
買ってくださったのですが、
ある中年の男性がわたしに近づいてきて、
「よもやま日記を読ませていただいています。
今日の案内がでていましたので、来てみました」
「ありがとうございます…」
名前はもちろん、どういう人なのかもわかりません。
でも、ほんとうにうれしかった。
読んでくださる人がいるということは、
書き手にとって、これに勝る喜びはありません。
このひとのためにも、倦まず弛まず、
これからもちゃんと書こうと思いました。

春風社は、
明日30日から明年5日まで、正月休みとさせていただきます。
6日が仕事始めです。御用の方は、6日以降にお願いします。

それでは、どちら様も良い年をお迎えくださいませ。

 朝十枚午後二十枚賀状書く

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毛抜き男とリンゴ女

 

 ふるさとや雪中ふかき三山碑

小説のタイトルみたいですが、実際の話。
道を歩いていると、いろんなひとに出くわします。
電気シェーバーで髭を剃りながら横断歩道を渡る男の話を
ここに書いたことがありますが、
このごろまた変ったひとを目にしました。
ひとりは毛抜き男。
朝、保土ヶ谷駅に向かって歩いていたとき、
商店街を抜けたあたりで、前を行く男性に近づきました。
少し猫背で、後ろから見ても、
歩きながらなにやら顔の辺に手をやっているのが分かります。
追い抜きざま、ひょいとみると、
口元の伸びた髭を毛抜きで抜いているではありませんか。
年の頃、三十代半ばでしょうか。
電気シェーバーの男も面白かったけど、
こちらも相当に面白い。
朝から愉快な気分になりました。
また別の朝、紅葉坂の交差点を渡って、
心臓破りの長い坂を上っていた時のことです。
県立図書館の前の坂を、リンゴを丸齧りにしながら
中年の女性が下りて来ました。
このごろ丸齧りも珍しいのに、
歩きながらですから、相当に奇抜です。
よほど歯がいいのでしょう。羨ましいかぎり!
ここでもまた元気をもらいました。朝食だったんですかね。
出版人としては、
どういう経緯から、歩行中に毛を抜いたり、
リンゴを丸齧りする仕儀になったのであるか、
二人に尋ねてみたい気にもなりました。

 夢を持てと一人好い気の師走かな

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思うこと

 

 さっき行ったトイレに走る冬の朝

今其れ人を愛するに於て一法有り。人工の法に非ず。
姑らく之を循環黙愛と謂はむ。何ぞや。
譬へば此に友十人ありとせん。
我れ静黙以て日に其一人を胸裏に特愛し、
十日にして全部に及ぶ。終りて復た始まる。循環して已まず。
諸友各々亦此の如くす。此れ集団を神愛するの一法也。

人を愛する方法について、新井奥邃が具体的に記している箇所で、
「信感第二」(『新井奥邃著作集』第二巻三二七頁)に
でてくる言葉です。
年賀状を虚礼とよぶ向きもあり、
郵政民営化についてどう考えるかということも無視できませんが、
弊社では、今年も年賀状をだします。
だすとなれば、こころを無駄に用いずに、循環黙愛をもって、
一人ひとりていねいに一言したため送りたいと思います。

 バケヤロー!! 冬空仰ぎ高いびき

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ひとからいわれると

 

 気功の日瞑想破りし咳ばらひ

今週月曜日(12月21日)の読売新聞夕刊
「新刊立ち読み」のコーナーで、
拙著『出版は風まかせ』の書評が掲載されました。
ありがたいことです。
ひとつ気になったのは、「弱小」という単語。
こんなふうにつかわれていました。
「無の状態から何とか編集機を据え、
自宅を事務所にスタートした苦労、
弱小出版社には高額の新聞広告、
在庫書籍の保管問題などで頭をかかえるばかりだが、
尽きない本作りへの熱情が伝わってくる。」
結論部分は、ほんとうにありがたい。
だから、細かいことを気にするなよ、
ケツの穴が小さいな、あはははは…といわれれば
それまでなんですが、
例えばですよ、頭髪の不自由な人が先手必勝よろしく、
みずから「ハゲ」というのと、
ひとから「ハゲ」と指摘されるのとでは、
気持ちのありようが相当にちがいます。
この文章の三行目、
「拙著『出版は風まかせ』の書評が~」にしても、
これがもし、だれかから、
「あなたのつたない本を読ませていただきまして」
などといわれたら、やはり相当に面白くない。
でも、読売新聞の書評のおかげで、
目に見えて売れ部数は伸びましたから、
大人でもありますし、がまんすることにします。ぶちぶち…

 寒空や犬に吠えらる立ち小便

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キズとしての文字

 

 寒さつひつひさびさびと国なまり

活版印刷による文字をじっとみていたら、
紙につけられたキズのように見えてきました。
木につけられたキズから滴る樹液は、香油とよばれ、
ひとのいのちを癒してくれたり、
まずなによりも神への捧げものであったのだとか。
印刷技術を発明したグーテンベルクが聖書を印刷したのが1455年。
550年の時を経て、いま、
活版印刷が世界から消えようとしています。
消えてなくなるものを惜しんでも仕方ありませんが、
グーテンベルクが活版印刷に込めた意味をときどきは思い出し、
刻印された文字から滴る樹液を本からいただいていることを
忘れないようにしたいと思います。

 寒空やサラリーマンの襟のキズ

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トークイベント

 

 冬晴れの野鳥や我れを貫けり

横浜メディア研究会が主催するトークイベント
講師として招かれ、行ってまいりました。
テーマは、「『本』が好き!~出版は風まかせ~」。
この十月に上梓した拙著『出版は風まかせ』をふまえ、
春風社の立ち上げから現在までと、今後の展望について話しました。
当日の模様は、インターネットで生放送され、
機械音痴のわたしは、
プロジェクターを通じて映し出される画像につぎつぎアップされる
ツイッターの文面を、おのぼりさん的に眺めていました。

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締めくくりに、
文字そのものに対するわたしの勝手な印象「傷」の話や、
針路をまちがえないために「からだに訊く」という話をしていたとき、
聞いてくださっている方の何名かのからだが動いたことに目が行き、
そのことを一晩空けて思い浮かべ、
九月にお亡くなりになった竹内敏晴さんが生きて働いていて
くださることを、ありありありと感じました。
言葉というものを、これからもそういうふうにとらえ、
沈黙の世界、他者とつきあっていきたいと、
あらためて感じました。
会場にお集まりいただいた皆さま、
いろいろと準備してくださったスタッフの皆さま、
お世話いただき、ありがとうございました。

*写真は、橋本照嵩さんが撮ってくれました。

 冬晴れの野鳥の声の透きとほり

二進法かよ

 

 寒月や鎌倉過ぎし横須賀線

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この歳になって、小学校で習った二進法を
目の当たりにするとは思ってもみませんでした。
二進法というのは、ご存知のとおり、
あらゆる数字を0と1で表現するという画期的な手法です。
0と1で表現するということは、
onとoffでも表現可能ということになりますから、
世界は格段に拡がります。
なんて。
そんなことはどうでもよくて、
上の数字、流通業務を兼務している倉庫業者から
半月に一度送られてくる、弊社商品の取次からの注文数です。
この十年で300冊ほどつくってきましたが、
業者から送られてくる表は、
刊行年の古いほうから順になっており、
上から順に見ていくと、まったくの二進法です。とほほ…。
たまに4とか6とか、11とかがでてくると、ホッとします。
この表を見るかぎり、いかに本が売れなくなっているかは如実です。
ウチに限ったことではないでしょう。
ちなみに新刊になると、半月で二桁、
場合によって三桁となることもあるにはありますが。

・寒の水600cc飲みにけり

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