珪藻土

 

 おでんの具なにか忘れた竹輪かな

天井・壁が呼吸することで快適湿度の室内空間を保ち、
結露を防いで黴やダニを抑え、脱臭効果があり、
夏は涼しく冬あたたかく、耐火性にも優れ、
音の反響もおさえるてくれるという(ふ~)、
いい事づくめの珪藻土を、ここ二週間ほど塗っています。
塗っている、と言っても、
実際に塗っているのは家人と近所のまるちゅあんで、
わたしは専ら下準備のタッカー留めとシーラー(糊)塗りです。
一度洋間の天井を塗ったのですが、
それなり塗れたかなと思ったのに、翌朝見たら、
でこぼこぼこぼこがたがたで、がっかりしました。
が、それとは別に、その天井塗りで密かに
愉しいと思ったことが一つだけありました。
下手なので、練った珪藻土を乗せている板から珪藻土がボタッと
落ちます。しまった! と、最初は思うのですが、
さらにボタッ! つづいて、ボタッ!
ボタッ! ボタッ! ボタッ!
しまいには、もう次から次と、
ボタボタボタボタボタボタボタボタボタボタボタボタ。
降り始めた雨が勢いを増すように、
際限がありません。
傘を持たずに雨に当たり、最初は雨を避ける具合ですが、
そのうちどうでもよくなり、
しているうちに、むしろ雨に濡れている自分を
愉しむようになったものです。まさに、あんな感じ。
そんな体験を味わったのはよかった(?)のですが、
あとの床は、最早たいへんなことになっていたのでした。

 冬の日を吸ふて吐くや珪藻土

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帙函

 

 冬晴れのきみはブラジルぼくはモカ

和紙を和綴じにして作った和本などを保護するために包む覆いのことを、
帙(ちつ)と言ったり帙函(ちつばこ)と言ったりします。
厚紙を芯(しん)にし、丈夫な布や紙を貼りつけて作ります。
箱の状態からツメを外すと、
紙で作った糊付けされていないサイコロが
パタパタパタと広がるように四方に展きます。
なので「箱」よりも「函」のほうが感じがでます。
今はあまり見られなくなりましたが、
このたび縁あって帙函入りの本を作ることになりました。
先日、印刷会社の人が見本を持ってきてくれました。
わたしは自分の席にいたのですが、
編集担当の武家屋敷、その帙函を見た瞬間、
ニコッと微笑みました。
わたしまで嬉しくなりました。
武家屋敷は、武家屋敷だけに和のこころを持ち、
和装本、帙函が好きなのだなと納得した次第。
本を作ることはますます
贅沢なあそびになっていくような気がします。

 それぞれの生死冬日のいのちかな

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遠目

 

 塩むすび疲れをほぐすおでんかな

このごろの出勤時のたのしみは、紅葉坂ですれ違う女子。
とにかくスタイルが抜群で、
すらっとした脚の綺麗さはモデル並み。
というか、本当に、モデルさんかもしれません。
坂の上から彼女が下りてくると、
あまりのスタイルの好さに見とれてしまいます。
横断歩道の真ん中で立ち止まりそうになったことも
一度や二度ではありません。
ルパン三世にでてくる峰不二子は彼女がモデルなんだよ、
といっても、さほど疑われないのではと思うぐらいです。
顔も可愛いです。造作も悪くありません。
ただ一つ惜しいのは、目。目と目の間。
目が離れています。
二つの目が磁石のN極とN極が反発するように、
顔の縁(へり)に向かって勢いづいています。←  →
本人も気にしているのか、
アイライン、アイシャドウが凄いことになっています。
塗りたくっています。
外に向かう力を、
なんとか力でねじ伏せようとするかの如くですが、
目の放つ斥力には抗しがたいものがあるようで、
黒々とした目の周りが、心なしかちょっと悲しげでもあります。
でも、透けて見えるそのこころが健気な感じがし、
ますます可愛いなあ、とも思うオヤジであります。

 光太郎の詩に燦々と冬の午後

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夢で放つ

 

 股引の膝くたびれる師走かな

こんな夢を見ました。
今住んでいるマンションから出て左へ歩くと、
広いゆったりしたS字の上り坂になります。
木々は秋の気配を漂わせています。
深く息を吸い、吐きながら、ゆっくり上っていきます。
腹がぐるぐる鳴り出しました。
向こうから五十がらみの男性と二十代でしょうか、
一人の青年が歩いてきました。
すれ違って程なく、
ぐるぐるは、あるはっきりした様態をなし、
わたしはぐっと腹に力を入れ、思いっきりそれを放ちました。
すっきり感と同時に、おでんの玉子を割ったときのような
強烈な臭いが鼻を襲いました。
と、
それまで気が付かなかったのですが、
不意に、S字カーブを曲がって今度は親子でしょうか、
女性が二人近づいてきました。
しまったーーー!!
でも、もはやどうすることもできません。
わたしは何食わぬ顔で二人とすれ違い、
さらに坂道を上っていきます。
背後から声が聞こえてきました。
ママー。なんか臭くない?
そうか。親子であったのか。
あら、やだ。ほんとね。下水の臭いかしら?
あら、やだって、あんた…。下水じゃねーし。みたいな。
親子と思しき女性二人が臭いの元を、
先を歩いていく二人の男のどちらかと勘違いする可能性も、
無きにしも非ずか、なんてことを思いながら、
わたしは頂上を目指して歩いていくようなのです。

 畳の目に運を重ねて冬の雨

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勤労

 

 何も無き霜月佳日を喜びぬ

近所の桑野家の皆さんのご協力を得、
この三日間、前から興味のあった珪藻土を
壁や天井に塗りました、ついに。
まだ途中ですが、予想以上にいい感じです。
エーゲ海に捧ぐを彷彿とさせる壁、とでも申しましょうか。
わたしはもっぱらタッカーどめ(裏がボードの壁面は、
壁紙を剥がさずにホッチキスみたいな器具で
針をバチバチ打っていきます)と
シーラー塗り(珪藻土を塗る前の糊を壁紙に塗ります)。
三日目の昨日、珪藻土塗り本番に挑戦しましたが、
憎らしい鴉が糞をするように、
惜しい珪藻土を惜しげもなく
下にぼたぼた落としてしまいました。
どうもわたしは苦手です。
それでも天井は、桑野家の奥さんに褒められながら、
思いのほか落とさずに塗ることが出来ました。
はい。わたくし、叱られるより、褒められて成長するタイプです。
初日、奥さんが鶏の手羽先と玉子を煮たものを
持ってきてくださいました。
ビールの旨かったこと!
思わず、
労働の後のビールは旨いねー!

 土壁を塗りて冬日のかたぶきぬ

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うれしい手紙、葉書

 

 冬の蜘蛛時計回りに一巡り

弊社から本を出した方から手紙をいただきました。
本が機縁となり、博士号を授与されることになったそうです。
こころのこもった文面に、秀樹でない社員一同感激。
「春風社は、時間はかかるけど、いい本をつくるよ」って
なりたいね、と言うと、
みんな静かにうなずいていました。
葉書は拙著『出版は風まかせ』の読者カードです。
東京堂書店で購入したと書かれていました。
短い文章から熱いここころが伝わってきます。
職業欄に同業者とあって、
おや、と思いましたが、
調べてみたら、大手出版社の社長さんでした。
おかげで、ぽかぽかした一日になりました。

 口元が物欲しげなり冬の蜘蛛

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ご縁の歯車

 

 電線から嫌味で糞か寒鴉

学生時代、青江舜二郎の本を読んでいたことが、
今の仕事に繋がろうなどと、だれが想像しただろう。
青江は秋田市出身の著名な劇作家で、ご長男の大嶋拓氏が今
異端の劇作家 青江舜二郎 ~激動の二十世紀を生きる~
を秋田魁新報に連載している。スコブル面白い!
名文家・青江のDNAはたしかに大嶋氏に伝えられていると見た。
大嶋氏の担当で秋田魁新報社文化部デスクのS氏は、
わたしの高校の同期生。
一昨日、大嶋氏と電話で話していて驚いたのは、
青江舜二郎が武塙三山(祐吉)と懇意にしていたという事実。
知らなかった。
武塙三山については、拙著『出版は風まかせ』で少し触れたが、
無医村だった故郷の村に医者を招聘した篤志家で、
秋田魁新報社社長、秋田市長、上井河村村長を歴任した。
またわたしは、青江の『狩野亨吉の生涯』で
‘怪物’狩野亨吉なる人物を知った。狩野も秋田出身である。
安藤昌益の『自然真営道』を発掘した人として夙に有名だが、
夏目漱石の小説のモデルになったり、
一校の校長だったり、蔵書十万冊を東北大学に売ったり、
極めつけの読書家だったにもかかわらず、
自らは一冊の本も残さなかった。
名利の埒外にあった人(新井奥邃を彷彿とさせる)と言えるだろう。
露伴や漱石や谷川徹三ら錚々たる学者・文人たちから
一目も二目も置かれていた傑物であったのに、
(のに、というのも変だが)
「性」に異常なほどの関心を示した。
でも(でも、というのも変だが)
謹厳実直な高潔の士であることに変りはなく、
松岡正剛によれば、
社会派弁護士として名を馳せた正木ひろしは、
狩野亨吉を「国宝的人物」と称えたという。
ご縁の大きな歯車がまた少し動き始めたようで、
わくわくしてくる。

 ひょんひょんと斜めスキップ寒鴉

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