自嘲

 

 文楽のこゑのここまで蜜柑かな

ときどき自分のおこないを客観的に眺めて、
笑ってしまうことがあります。
先だって笑ってしまったのは、トイレに入ったときでした。
用を足そうと、ズボンのチャックを下ろして、
中のモノをつまみ出そうとするのですが、
ズボンがパンパンなために、
また、寒さでモノが縮んでいるために、
どこに紛れ込んだのかとんと見当がつかず、
おや? あれ? ってんで、
つい、へっぴり腰+ガニ股になります。
なぜへっぴり腰+ガニ股になるかといえば、
そうすることで、前に空白ができ、
モノが取り出しやすくなるからです。
あははは… 酔っ払い爺みたい、と、
トイレのなかで一人笑ってしまいました。
社に戻り、男子諸君に尋ねてみたところ、
多かれ少なかれ、同じような格好で
モノを取り出しているとのことでした。
ところで、
わたしは今、ズボンを「ズボン」と、
チャックを「チャック」と書きましたが、
「ズボン」は「パンツ」、
「チャック」は「ファスナー」と書くべきだったかもしれません。
こういう単語の由来について、分かりやすく、
面白く書かれた本がまもなく出ます。
タイトルは『英単語のいのち』、
あのベストセラー(!?)『英語になった日本語』の
続編とも言うべきもので、三月刊行予定です。
著者は早川勇氏。
わたしの師匠でありスーパーエディターであった故・安原顯氏が、
エッセイで「パンツ」を買った話を頻繁に書いていたら、
ジャズ喫茶オーナーで
弊社から『たのしいジャズ入門』を出している寺島靖国氏は、
「どうしてそんなにパンツをしこたま買うのか」と
突っ込みを入れたそうです。
寺島さんの気持ちがよく分かります。
わたしも、「ズボン」を「パンツ」と言うのは、
抵抗があります。

 二寸子を取り出すまでの寒さかな

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私の本

 

 散髪の頭に巻きしマフラかな

千葉県松戸市在住の松菱多津男さん(80)が編纂した
『ガリヴァー旅行記蔵書票集』が、
読売新聞千葉版に取り上げられました。
蔵書票は、一般的にはあまりなじみがありませんが、
熱烈なファンが多くあり、
「紙の宝石」と呼ばれているものです。
記事の詳しい内容は、こちらをご覧ください。
本がまだ貴重だった時代に、
「私の本」であることの証に、
本の所有者が版画作家に十枚、二十枚と、
小さな版画=蔵書票をたのみ、
それを、いのちの次(奥さんや、親や子どもや恋人の次)
に大事な本の見返しや扉に貼り付けていました。
新聞に紹介されたおかげで、
昨日、電話での問い合わせが十数件ありました。
蔵書票に関心があるということは、
とりもなおさず、電子ブックでない、
紙の本に関心があるということです。
機械に蔵書票を貼るのは、ちょっと変ですから。
記事には、
松菱さんの二十年来の夢を実現させ、
とありますが、元をただせば、
原爆を落とされた広島を訪ねていった十七歳のときに、
その種は播かれていたといっても過言ではありません。
人生の深い味わいを、
『ガリヴァー旅行記蔵書票集』は湛えていますが、
春風社にとっても、
今後の行く道を豊かに示してくれる
ありがたい出版物になりました。

 おむすびの坊主頭がマスクかな

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創業一二〇周年

さ湯すすりジャズと落語の炬燵かな

きのう二月一日は、神奈川新聞社創業の日。
はじまりは「横浜貿易新聞」と称していました。
この好き日にあたり、不肖わたくしが、
紙面の半分ぐらいを占め、でかでかと、
写真入りで紹介されました。
いろいろな職業人を月一で紹介する新コーナーで、
その最初というのですから、実に名誉なことです。
取り上げてくださった神奈川新聞社、
記事を書いてくださった記者の宮島さんに感謝します。
春風社は、ただいま十一年目。
まだ十分の一にも達していませんが、
継続することの意味を噛みしめながら、
歩んでいきたいと思います。

句をひねり游ぶ大人の朝の雪

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景気は?!

 

 大寒や故郷看板大自慢

月に一度行く床屋さんに行ってきました。
「景気はどうですか?」
「まあまあ、ってとこですかね」
「そちらは?」
「まあまあ、ってとこですかね」
この四句が、だいたい挨拶がわりです。
聞けば、きのうは、朝七時から始めたのだとか。
予約制で、客の都合に合わせて店を開けます。
いちばん早いときなど、
朝四時半に開けたこともあるそうです。
パンチパーマをかけ、髪を染め、すべて終了したら、
夜がしらしらと明け始め、
やがて二人目の客がやってきた。
…てなことを聞いているうちに、
わたしの坊主頭は終ります。
「ありがとうございました。客が続くといいですね」
「いやぁ。たぶん今日はこれで終りでしょう」
御代を払い、京急井土ヶ谷駅近くにある菓子舗
「濱うさぎ」までぶらぶら歩き、
どら焼き二つと栗甘納豆を買って店を出、
来た道をまたぶらぶらと。
歩きながら、床屋の中をひょいと覗くと、
二脚ある椅子に客はなく、
ご主人の姿も見えませんでした。

 毛布巻き落語のこゑの刺さりけり

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体験学習 2

 

 小さき本つくり愉しむ中二春

横浜女学院の生徒さんたちの職場体験も二日目となり、
いよいよ佳境に入りました。
多聞くんを中心に、十六頁の小さな本を作ります。
「私の好きな本」をテーマに
文章を書いてきてもらいましたが、
どの生徒さんも上手で驚きました。
肩の力が抜けた素直な文章ながら、
言葉えらびに工夫がみられ、味のある作品になっています。
また、例年、ソフトカバーの本をこしらえてきましたが、
多聞くんが事前準備に時間を費やし、今年はなんと、
フランス装の凝った本を作ることになり、
子どもたちもリラックスして作業に没頭していました。
さらに今年は、
神奈川新聞記者の宮島さん、
フリーライターの森さんが加わり、
二人も実際の本づくりを体験。
その模様がさっそく今日の神奈川新聞に掲載されます。
なにか、出版社、新聞社、教育現場の
新しい関係の始まりを予感させる二日間でした。
テーマは「私の好きな本」ですが、
それぞれのタイトルも、各人が考え、決めました。
好きな本の文中からえらび、エピグラフまで付いています。
金子さん、飯島さん、木村さん、劉さん、
お疲れ様でした。
おかげで、わたしたちも楽しい時間をすごすことができました。
ありがとうございました。

 うごうごと背アガゴゲグボ春近し

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費用対効果

 

 キーボード稿の秋田の冬終り

経済なり商売なりには、
費用対効果、ギブ・アンド・テイク、
ハイリスク・ハイリターンなどの言葉があります。
見返りを求める、見返りのことを考えるという
一つの尺度であり、
この世で生きていくためには、必要なことであり、
とても重要なことでもあります。
一方だけが得をし、他方が損をする関係は、
けして長続きしません。
しかし、馬鹿の一つ覚えみたいに、
人生のあらゆる局面に費用対効果のモノサシを
当てはめて考えるのは、どんなものでしょう。
女がキレイになるにはHも必要であるということを枕に、
結婚した場合のHと、ホテルでするHの費用対効果を計算(!)し、
結婚してのHのほうがコストパフォーマンスが高いから、
結婚も大事みたいな話を小耳に挟みましたが、
井戸端会議の話としてならいざ知らず、
まともな人の意見とは、とても思えません。
噴飯ものです。
そういうことを言ったり、
書いたりする人間には共通するところがあって、
まず、底意地が悪い。
劣等感が人一倍強い。
世の中に受け入れられないのは、自分が悪いのではなく、
世の中のほうが悪いからだと思う。
それでも、努力努力で這い上がろうとし、
劣悪な世の中をたくましく生きていこうとする。
費用対効果のモノサシを多用しない人間を
あからさまに敵対視する。
化粧でいくらキレイにしても、
眼が笑っておらず、醜く、表情が引きつっている。
おだてに乗りやすい。
以上は、わたしの偏見ですが、
費用対効果、コストパフォーマンスを
金科玉条のように掲げる人の心性、外見の共通項を、
わたしはそのように見、軽蔑しています。

 街灯のジリリと泣きし寒さかな

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体験学習

 

 冬一日(ひとひ)只管すする塩ラーメン

横浜女学院の中学二年生による体験学習の日が
やってまいりました。
ほんとうは、去年の十月に実施するはずだったのが、
インフルエンザの猛威により、
やむなく今回は中止。
との連絡を一旦はいただいたのですが、
生徒さんたちは楽しみにしているし、
先生たちも、
学校の授業とは別の教育的意義を感じているらしく、
年を越すことになるけれども、
ぜひお願いしたいということで、
例外的に今回は一月、
今日と明日の二日間になりました。
二日間で、生徒さんたちが用意してきた作文を元に、
十六ページの小さな可愛い本を作ります。
今回は、
神奈川新聞の記者やヨコハマ経済新聞のライターも加わり、
いっしょに本作りを体験してもらいます。
初日午前中の講師はわたしが務め、
あとはテラチーと多聞君が、
といっても、他のものも加わって、
春風社としても、
二日間の大きなイベントになることは間違いありません。
わたしたちは、
教えながら、ふだん体験しないことを、
生徒さんたちから教わることになります。

 ふるさとや電話を置きし冬晴れ間

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