言葉を意味で

 

・アーアーアー旭日揺れて昇りけり

ウィスキーを水でわるように
言葉を意味でわるわけにはいかない

く~っ!
田村隆一の詩「言葉のない世界」より。
二〇一〇年一〇月から全六巻で刊行された
『田村隆一全集』を
朝、
ぽつりぽつりと。
装幀は間村俊一。
と、
上のような言葉に出合い、
すべての言葉を
意味で割って分かった気になってやしないかと、
反省させられることしばし。
また逆に、
意味で割らずに
言葉を言葉として
そのままとっぷり楽しむように、
ウィスキーを
水で割らずに楽しむことを、
このごろ少うしやっと分かりかけてきて嬉し。
遅し!

・詩篇あり前頭までの旅路なり  野衾

乗り換え危険!

 

・新緑の中を点点人の在り

横浜駅での電車の乗り換えはたいへん危険。
長く改修工事をしていたせいか、
動線が乱れ、
縦横斜めに人が走る走る走る。
危ないことこの上なし!
軽い接触は日常茶飯。
一度など、
若いサラリーマンが
階段を転がるように下りてきたかと思いきや、
改札口に向かって猛ダッシュで突っ込み、
若い女性を突き飛ばした。
女性は宙に浮き、
コンクリートの地面に落下。
起きて不思議はない。
改札を抜けた男も女も、
気違いのように顔を赤くしホームに向かう。
看板の出る日も近いだろう。
「危険ですから駅構内を走らないでください!」

・ここを過ぐ晴れもあるかと五月かな  野衾

拝啓 矢萩多聞様

 

・本を閉じ珈琲の夜の満月

近著『偶然の装丁家』面白く読ませていただきました。
ゲラの段階で一度読み、
本になってざっと読み、
以後ずっと自宅の机上に置いてありましたが、
もう一度読んでみました。
今度は朝、ゆっくり、静かに。
そうしたら、
春先に眩しい陽光が差し、
たろんぺ(秋田弁。つららのこと)が融け始めて
水が温むごとく、
いろんなことがはらりと見えてきた気がし、
嬉しくなりました。
この本には、
多聞さんが不登校になった経緯も書かれていますが、
その時期の
心理の移行と変化がていねいに記述されていて、
インド映画『地上に星が』を思い出しもし、
幾度か目頭が熱くなりました。
たとえば二十ページ、
「ある日、音楽の授業中、先生はぼくをじろじろ見ながら、
「このなかに音痴がいる」と言った。」
その段落から次の段落へかけ、
心の変化をていねいにたどっているのに、
人の心の叙情というよりも
まるで化学変化の移ろいの
正確な記述を見せられるようで、
目が離せず、
何度も繰り返し読み返しました。
ある朝、登校途中
「とてつもなく冷たく暗い気分になった」あなたは、
「吐き気がして、足が進まな」くなり、
河原の柵にもたれて川を見ます。
「ころころ転がり流れる水を見て何十分たっただろう。
少しずつ気持ちが落ち着いてきたので、
歩いてきた道をとぼとぼ戻り、なんとか家にたどりついた。
玄関のドアを開くと、母は驚いた顔をして、どうしたの? と聞いた。
ぼくは泣いて訴えた。もう学校には行きたくない、と。」
この本には、
竹内敏晴さんも登場しますが、
多聞さんの今回の本、
多聞さんの『ことばが劈かれるとき』だなと感じました。
またゴーギャンの
『われわれはどこから来たのか われわれは何者か われわれはどこへ行くのか』
を連想したのは、
かつて見せてもらった黒い表紙のノート、
あれはあなたがまだ保育園にも通っていない
ごく幼い頃のものでしょうか、
そのノートを思い出したせいかもしれません。
さて最後に、タイトルの『偶然の装丁家』について。
「装丁家」は分かるとして、「偶然」とはなにか。
偶然=たまたま然り。
この偶の字。
白川静さんの『字通』によれば、
「偶然」の偶は、遇に通じるとあります。
しかして遇とは?
『字通』に曰く、
「禺はぎょう(禺+頁)然たる姿のもので、もと神異のものをいう。
そのような神異のものに遭遇することを遇という。」
偶然の偶が遇に通じ、
人間わざを超えた神異にめぐり合うことだと知り、
ひとり合点がいった次第です。
神異に耳をすます多聞さんのこれからを
楽しみにしております。

・物思ふ残り少なの五月かな  野衾

読む順番

 

・昏き夜を酔い心地して街の珈琲

たとえばひと月に十冊の本を読むとすると、
一年では百二十冊。
これを十年続けると千二百冊。
さてそこで、
ある人が自分の興味にしたがって
千二百冊読んだとします。
それと全く同じ順番で読む人がいるだろうか、
ふと思いました。
読む順番に個性が現れる
とでもいいましょうか。
こちらが本を選んでいるようで、
実は、
本がこちらを選んでいる、
そんなこともあるのじゃないか。
またその大元は…。
リニューアル成った今回の「春風新聞」で、
佐々木幹郎さんは、
木戸敏郎さんの『若き古代』について
エッセイを書いてくださいました。
導かれるようにして今それを読みながら、
その本が、
現在進行中の仕事
『西田哲学から聖霊神学へ』と、
びんびんと響き合う気がして圧倒されます。
大げさにいえば、
今これを読むことの奇跡に打たれます。
人間は方位のなかに組み込まれ、
時間の概念と空間の概念が重複した「間」に身を置いている、
ことを
木戸さんの本を読んで再確認しました。
わたしたちは、
宙に浮いて生きることはできない。
また、宙に浮いて生かされることはない。
『若き古代』には、
「日本文化再発見試論」のサブタイトルが付いています。

・岐路に立つ此処が思案の五月かな  野衾

大感情

 

・ひとしずく心を物の眺めかな

青森県出身の三上寛という歌手がおりまして、
学生時代にレコードを聴いていました。
彼の歌に「大感情」があります。
「宮古の街へ行けば 遠い古代の海から
幾億 幾万 幾千の 白い帆船が
見える 見える 見える」
ゆっくり、静かに、深く、
歌われます。
レコードはとっくに捨てました。
我が感情が疎ましく、
いま無性に聴いてみたくなりました。

・五月雨を待つ心地して眼(まなこ)閉づ  野衾

リニューアル「春風新聞」

 

・新緑や雨一滴の命なり

春風社は、おかげさまで今年が十五周年。
9月27日の記念パーティをはじめ、
いくつかイベントが予定されていますが、
この機にあたり、
ご好評をいただいてまいりました「春風目録新聞」を、
「春風新聞」と改題し、
大幅にリニューアルいたしました。
なんと今回は特別の16ページ!
たっぷりの読み応えがあると思います。
表紙の写真は、橋本照嵩さん。
リニューアルに際しての組、デザインは、
十二年ぶりの新著
『偶然の装丁家』が成ったばかりの矢萩多聞さん。
表紙には新井奥邃のことばをあしらっています。
記念すべき今号の特集は、
「時を忘れさせてくれた本」
執筆者は九名。
長田弘さん「アッティカの少女の墓」
佐々木幹郎さん「わたしたちは古代人よりも老化している」
阿部公彦さん「栃折久美子『森有正先生のこと』――ものすごく迂遠な恋愛」
吉行和子さん「本箱一つ」
色川大吉さん「血肉化した透谷の詩文」
池内紀さん「恩地孝四郎『博物志』」
中条省平さん「甦る今のとき」
平尾隆弘さん「『やちまた』の時間」
中村邦生さん「一睡もさせない夢として」
また、
ご好評の連載は、
白井聡さん「ポストモダンの処方箋 13 謎を与えること」
長谷川宏さん「日々の風 暮らしのなかの哲学 9 幼児と暮らす日々」
中条省平さん「翻訳ピンチ! 13 ミツヒラトとユニオシの末裔?」
しりあがり寿さん「帰ってきたmini大河 12 軍師の計」
中島岳志さんは今回お休みです。
以上、
特集と連載の執筆陣の皆さんでした。
目録部分も前のものより読みやすくなったと思います。
コラムも充実!
横浜関連では、シネマ・ジャック&ベティの支配人・梶原俊幸さん登場。
「自著を語る」は、『天狼俳句の英訳――誓子・敏雄・綾子』の古平隆さん。
「営業部発 本屋に行こう」は、菊名にある石堂書店さん。
「この研究室が面白い!」は、
『ベルベル語とティフィナグ文字の基礎』の石原忠佳さん。
ということで、
リニューアルなった「春風新聞」
どうぞご期待ください!

・降りのこす処も無くて五月雨  野衾

あと何回のコナン

 

・コナンならキャラメル味のポップコーン

一年前にりなちゃんと約束した
『名探偵コナン 異次元の狙撃手(スナイパー)』
を観てきました。
りなちゃんは今年から中学生。
昨年は、
おねえちゃんもいっしょでしたが、
今年は弓道部の試合が入り、
おねえちゃんは先に一人で観たそうです。
劇場版は年に一回なので、
りなちゃんも、
ひかりちゃんも、
もちろんわたしも、
年に一度のイベントとして楽しみにしています。
ポップコーンセットを買い、
いそいそと選んだ席に着きました。
映画が始まりました。
今回はアメリカ人が登場するので、
英語が話される場面で
日本語字幕がでるのはいいとして、
すべてのセリフについて
字幕がでるのはどうしたわけ?
不思議でしたが、
耳の悪い人にも楽しんでもらうためのものかなとも思いました。
確かなところは不明なれど、
これならば、
耳の遠い秋田の父でも楽しめる?
いや、
父はそもそもコナンを観ないか…。
なんてことは置いといて、
映画が終わる頃には
ポップコーンもほとんど無くなり。
ああ面白かった!
な、りなちゃん。
ん!?
ふんふん。そうか。
ホームズを好きで読んでいるりなちゃんにしてみれば、
コナンがコナンらしく名探偵ぶりをもっと発揮し
謎を解くシーンがさらにあってほしかった…。
なるほど。
館の外は天気もよく。
歩いて馬車道にある「勝烈庵」へ。
大好きな盛り合わせ定食を。
ああ美味しかった!
ね。
「みうらちゃん、また来年も観に行く?」
「もちろん!」

・とびつきり特別感なりくわ焼きは  野衾