中井久夫さんは精神科医ですから、
ご専門の本はとうぜん多く読んでいるわけでしょうけれど、ギリシャ詩の翻訳や
ポール・ヴァレリーさんの詩の翻訳まで手掛けるくらいですから、
どんだけ読書の範囲がひろいの、と驚いてしまいます。
こんかい引用している本に、二宮尊徳さんのことがでてきてびっくり。
二宮尊徳というような話をすると古いかもしれませんけれども
あの人はなかなかいいことをいろいろ書いているんですが、
あの人が村を立て直すというときに本当に村が立て直ったというのは、
二宮という人が村の立て直しにタッチしたというようなことは忘れてしまって
自分たちの力で村を立て直したんだというふうに思うようになった時に
初めて再建できたんだということを書いている
のを読みまして、
まさに精神科医あるいは一般に医者というものとおなじだなと、
そして二宮という人は、
村を立て直すという意味では非常にいい″医者″だったんではないか
と思ったことでございます。
(中井久夫『中井久夫コレクション 世に棲む患者』ちくま学芸文庫、
2011年、p.236)
引用した文章は、医師たちの集まりにおいて中井さんが話したものを
録音テープから起こし「比較的忠実に文字にした」と
「文庫版への付記」に書かれています。
それがまたなんとも中井さんらしくて、おかしい。
いわく、
「医師集団というものの威厳というか威圧力を同じ医師の私でも
これほど感じてしまうわけですかね。
保険医協会というのは、まあ、王様みたいな医師のいない集まりですけれども」
(同書、p.268)と。
・半世紀変らずの空帰省かな 野衾

