記憶の自動書きかえ

 

わたしの誕生日は11月25日。ですので三島事件があった日のことはよく憶えています。
13歳になったちょうどその日でしたから。
自宅の二階から下りてきたら、
テレビで、
片手を腰にあて大声で演説する軍服姿の男を報じていた。
映像とともに、
その記憶がずっとわたしのなかに居座っています。
ところが。
つい先だってのこと、目をみはり、驚いた。
三島事件についての『ブリタニカ国際大百科事典』の説明文によれば、
「1970年11月25日午前11時10分から同日午後0時15分にかけて
三島は「楯の会」の会員4人を伴い、
東京都新宿区市ヶ谷の陸上自衛隊東部方面総監部総監室を訪問、総監の益田兼利を縛り、
不法監禁するとともに総監室を占拠。」
となってい、
説明はさらにつづきます。
ということは。
学校へ行こうとしてわたしが二階から下りてきたのは朝ですから、
テレビでアジ演説を見るわけがない。
なので、
わたしの記憶は、明らかに間違っていることになります。
ここからは想像です。
テレビで見たのは翌日だったか?
13歳の誕生日の頃は、
白黒のテレビが家にあったはずなので。
それとも。
こちらの可能性が大きいと思うのは、
事件の起きた日は、
11月25日で間違いないわけですけど、
三島さんがアジ演説をする映像は、昭和史の事件としてその後何度もテレビで見、
目に焼きついていますから、
わたしのなかで記憶の書き換えが行われたのではないか、
ということ。
事件の起きた日がわたしの誕生日だった、
ということで、
書き換えられた記憶がいつの間にか正式のものとして
わたしの物語にちゃっかり記録されてしまった…。
事程左様に、
記憶は加工され、捏造されます。

 

・ひぐらしや乗降客の駅ホーム  野衾