これまでの人生で、いまほど本を読んでいることはないかもしれません。
新型コロナウイルスが感染症法上の5類に移行し、
一定度の落ち着きを見せてはいるものの、
COVID-19は、個人的にもいろいろ感じ、考えさせられるきっかけになりました。
いろいろあることを、ひとつのことばで言えば、
「接触=触れる」ことの、人間にとっての意味の再確認
だったかと思います。
本のこと、本を読むことも、改めて考えさせられます。
日々、本を手に取り、本の重さを感じ、開き、本文の紙にさわり、なで、
黒く印刷された文字を目でなぞっていく。
真っ白い紙ではなく、
ほんのすこし黄みがかった紙に印字された黒い点や線の記号が、
子どもの頃からの学習によって身につけた覚えにより、
単語となり、文となり、
わたしのあたま、こころに像をむすんでいく。
ほかのひとのためでなく、まず、わたしにとっての「よい」をさぐる
ことも、
COVID-19の教訓であるようです。
わたしたちは相変わらず服を着ているし、その大半は裁断・縫製されたものだ。
だが、
次々と生み出される流行に合わせて衣服を脱ぎ着し、
自らを誇示することへの疑問が感じ取られているのかもしれない。
だからこそ、
編むことによって身体表面を覆い尽くし、
布地と交感して皮膚を呼び覚まし、
シームレスにつながる「皮膚」としての衣服が求められる。
ヴィジュアルイメージを更新するのではなく、
皮膚感覚を希求するファッションこそが、
二一世紀以降の新たな方向性を指し示していると言えるだろう。
(平芳裕子[著]「シームレスの美学 ファッションと皮膚感覚」、
平芳幸浩[編]『現代の皮膚感覚をさぐる 言葉、表象、身体』春風社、2023年、p.134)
『現代の皮膚感覚をさぐる 言葉、表象、身体』
は、
弊社から昨年三月に刊行された本で、
八人の方の共著になります。
COVID-19の経験をも踏まえた真摯な論文集で、
一読者としておもしろく読み、それぞれの論考からさまざまな刺激を受け、
いろいろ考えさせられました。
本を読むことが、どの媒体で読むかをふくめ、
わたしのとってどういう意味があるかを考え、考えさせられたのも、
その一つであります。
・日を暮らしとろりの時の端居かな 野衾