秋風は

 

夏は真っ盛りなのに、いや、真っ盛りだからこそかもわかりませんけれど、
こころは、はや秋をもとめていくようです。
古来、
日本人は秋の風を詠んできまして、
秋の風といえば、
季節と相まち、
寂しさや旅愁をさそうものでありました。
算えていませんが、
万葉集に秋風を詠った歌がけっこうあったはずです。
ところで同じ秋の風でも、
古今集になると、
季節の「秋」とともに、
人の心の状態を示す「飽き」が掛けて詠まれるようになります。
たとえば714番、

 

秋風に山の木の葉のうつろへば人の心もいかがとぞ思ふ

 

片桐洋一さんの通釈は、

秋風によって山の木の葉が色変わりして行くのを見ると、
「飽き風」によってあの人の心もどうなのだろうか、変わっているのだろうかと思うことです。

 

これ以外にも、
「秋」と「飽き」が掛けて詠まれている歌がいくつかあり、
こういうところからも、
平安時代の歌人たちのこころが偲ばれます。

 

・竜のかしら夏が車窓を過ぎゆく  野衾