Archives : 8月, 2013

ふとごべ

 

・天気予報けふも夏日と告げにけり

著名な作家さんが声をかけてくださり、
それはとてもありがたいことで、
あるパーティーに参加してきました。
海の見えるホテルの最上階、
目に綾なレストランで、
フランス料理のフルコースをいただき、
なごやかな雰囲気のまま会は進行していきます。
各界のお歴々がつどうパーティーながら、
肩の凝るようなものでは決してなく、
ときどき笑いが起こるような、
実際、
新参者のわたしまで
つられて何度も笑ったぐらいですから、
たのしい、
すてきなパーティーだった
とは思います。
が、
そうした集まりに身を置いていると、
毎度のことながら、
変な虫がうごめいてくるのを
どうすることもできません。
時間が気になり始め、
腕時計に目をやりたくなる自分を、
眼球が下に向かわぬよう
こらえるのに必死でした。
秋田の方言で「ふとごべ」という言葉があります。
「ふと」は「ひと」、
「ごべ」がどこから来たのか
調べがついていませんが、
「ふとごべ」する、
とは要するに
「人見知り」すること。
子どものころ、
家に大人たちが集まり
飲み食いするのを
暗い部屋から
台所のゴキブリよろしく
そっと覗いていたものですが、
あのころの癖が
いっこうに治っていないようなのです。
結局、
わたしには、
クサヤとパーティーは合わないみたい。
ようやく会がお開きになり、
しかるべき人に
しかるべくあいさつを済ませ、
早々に会場を後にしました。
ゆりかもめに揺られながら、
「ふとごべ」の魂を
墓場まで持ってゆかねばならぬのかと、
とほほな気分で
夜の海を眺めていました。

・段段の雲紅に染まりけり  野衾

 

・鬼灯を少女の母は鳴らしたり

『ファーブル昆虫記』を読んでいるせいか、
いや、
そんなこともないとは思いますが、
歩いていると
よく虫に出くわす。
このごろは蝉。
羽一枚だけ
道路からにょっきり生えでもするかのように
上を向き、
ふるふると動いてい、
なんだこれ
と思って近づいて見れば、
蟻が一生懸命に運んでいる図でした。
自分の体の何十倍もありそうな蝉の羽を
巣まで運ぶつもりなのでしょうか。
羽がついていた胴体は見つからず。
何メートル何十メートル運んできたのか。
全くおそるべし蟻、です。
それはともかく、
生を終えた蝉の死骸を一日に何匹も目にする。
その度に
そっと手に取り、
辺りを見回し
よさげな蝉の墓場を見つけ
静かに葬り掌を合わせるのですが、
ときどき、
つまんだ瞬間
ばたばたと羽を動かすものもいて、
だいじょうぶだよと言ってみる。
なにがだいじょうぶ?
賢治なら、
怖がらなくてもいいと言うか。
さて今日から七巻目。

・八月もあと三日の命なり  野衾

頬を噛む

 

・涼しさや思はずこゑに出でにけり

食事をしていてどういうはずみか、
頬の内側や唇の裏、舌を噛んでしまうことがあります。
噛んだ瞬間、
やっちまった! と思うものの、
さほど痛いわけではありません。
指で触ってみると、
唾液に混じってうっすら血がにじんでいる。
ところが、
これがなかなか治らない。
噛んだときのことを
つらつら思い出してみます。
すると、
ある共通した状況が目に浮かんできた。
それは、
店が混雑していて
梟のように身を細め、
窮屈な思いをしながら食事をしているとき
ではなかったかということ。
狭い空間で身を細めていると、
口の中まで狭くなり、
それで歯があちこち当たったり
噛んだりすることになってしまうようです。
あとは疲れてボーッと寝ながら食べているようなとき。

・胸いつぱい深呼吸の秋となる  野衾

待つしかないか

 

・忙去りて独り待ちにし秋は来ぬ

インド映画の傑作 3 idiots
(邦題「きっと、うまくいく」)
のDVDがアマゾンでようやく予約開始
ようやく予約(笑)開始になり、
さっそく注文。
映画館に四度足を運び、
そのたびに
笑ったり泣いたり笑ったり、
洟をすすったりもしましたが、
それでも飽き足りず、
パソコンを立ち上げると、
ということは
一日も欠かさず、
「きっと、うまくいく」と入力し、
DVDの発売はまだかまだかと心待ちにしていました。
きのう、
その願いがやっと叶いました。
が、
発売日は十二月三日。
まだ三ヶ月以上先のことです。
とほほ…。
いやいや嘆くまい。
果報は寝て待てというではないか。
世知辛い世の中、
好きな映画のDVDが届くのを待つことにし、
友と映画の話をしながら、
美味い酒でも酌み交わそう。
届いたら、
あと百回は観ることになるでしょう。
アーミル・カーン最高!

・南島を夢見憧れ秋に逝く  野衾

笑い声

 

・廻る季やバントンタッチの虫の声

元住吉の鍼灸院での話。
六、七年ほど通っているので、
先生とすっかり親しくなり、
だけでなく、
お客さんのなかにも
声だけですが、
いつの間にか親しくなった人がいます。
カーテンで遮蔽されただけの空間にベッドが置かれ、
そこで療治してもらいますから、
声はとってもよく聴こえるのです。
いつものAさんが
隣りに入りました。
きょうは十時からなのでしょう。
初めて彼女の声を聴いたとき、
Aさんはまだ中学生。
その後、
高校、短大と進み、
今年就職が決まったはず。
カーテン越しの会話から、
そんなことまで分かってしまいます。
別に悪いことでもありません。
一度だけ、
療治前のAさんとあいさつしたことがあります。
長い付き合いだからでしょう、
Aさんとは先生もリラックスした様子。
ほどなく。
「うちの奥さん変っててね」
「天然なんですよね」
「そうそうそう」
「なんかあったんですか?」
「あったのあったの。こないだ中学時代の同級会があったんだけど」
「ふんふん」
「奥さん何を思ったのか、同級生に向かって」
「ふんふん」
「あはははは」
「先生、笑わないで教えてくださいよ」
「ごめんごめん」
「奥さんが同級会に行って、それからどうしたんですか?」
「ある人に向かって」
「ある人に向かって」
「ところであなたいくつになったの?って」
「え!? 同級生に向かって?」
「そう。おかしいでしょ?」
「おかしい!」
「ね。いくら天然だからっていってもね…」
「そうですね」
「ははははは」
「ははははは」
Aさんの笑う声は中学生のときのままでした。

・八月を歩きここまで来てゐたり  野衾

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三浦衛(みうら・まもる) 春風社代表にして自慢大王&悪ノリ大王。体調のいいときは自らを天才と称し、不調の折はちりあくたにも劣るヤツとしょんぼり。

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三浦衛の本


『カメレオン』
 三人ときどき声にならぬ声を洩らし/とろけ とろけ 唾までとばし/クヂるとナメるとネヂるとチョす…(「鳶」) 自在に色を変え、不意に突き刺さる、軽妙なことばの戯れ。秋田方言満載の詩集。本文は金属活字による活版印刷。


『マハーヴァギナまたは巫山の夢』
 三平佐世夫は、千一夜の夢うつつで女と戯れ、印度に旅し、睾丸を抜かれ、鰐を飼い、横浜を彷徨う。言語の崖っぷちを綱渡りする、めくるめく冒険。本文活版印刷に美麗造本を施した平成の大奇書。


『父のふるさと』
 父の目に映じた故郷の風土、ひと、くらし、農事を、愛惜をこめ描きだす。本文は金属活字による活版印刷。「身と蓋函」に納める。


『出版は風まかせ』
 横浜の出版社「春風社」社長が本づくりと会社経営にまつわるエピソードを豊富におりまぜ、創業から10年を振り返る。