影たちの祭り

 

・影たちが生きて飛び出す祭りかな

新宿ケイズシネマで公開されている、
『影たちの祭り』を観てきました。
日本で初めての影絵劇団「かかし座」は、
昨年、
創立六十周年を迎えましたが、
その舞台裏と団員たちの悲喜こもごもを描いた
ドキュメンタリー映画です。
監督は、
『火星のわが家』『凍える鏡』の大嶋拓さん。
ドキュメンタリー映画は初になります。
映画の主役は、影たち。
ひとは脇役。
映画を観ながらいつしか、
少年のころの
なつかしい記憶に連れもどされます。
手を光にかざして
影をつくり、
いろいろに形を変え、
それを楽しまなかった子どもがいるでしょうか。
いつの時代の、
どこの国の子どもも、
自分がつくりだす影に驚き、
友だちといっしょに
わいわい遊んだり、
一人のさびしさを紛らわしたり、
影にやどる命の不思議に驚かされたり
してきたのではなかったか。
お客さんの前で演じる劇団となれば、
大道具小道具いろいろ必要になりますが、
手そのものはだれでも持っていて、
それを光にかざしさえすれば、
そこにたとえば、
ウサギが、
ネコが、
白鳥が、
ペンギンが、
ライオンが、
キリンが、
象が飛び出してきます。
上手にできないかもしれないけれど、
まねして自分でもやってみようという気になります。
そこに
ことばを超えたコミュニケーションが成り立つ
ゆたかな宝がひそんでいると
思わされました。
外国でも好評を博しているそうですが、
うなずけます。
映画のなかの影たちを見ながら、
ひとつ気づいたことがありました。
それは、
演じ手からいったん切れて、
透明になっているということです。
しかし、
生まれた影は透明でも、
人間が透明なことはありえない。
映画の後半、
透明な影たちを生み出す団員たちのドラマに、
カメラは
何かに引き寄せられるように迫っていきます。
その引き寄せられ方に身を乗り出します。
これまで劇映画をつくってきた大嶋監督の
本領、こころの動きも反映されているのでしょう。
映画は十九日まで、
JR新宿駅東南口近くの「新宿ケイズシネマ」にて。
詳しくは、コチラをご覧ください。

・風立ちぬ葉裏しらしら招きけり  野衾