智慧の悲しみ

 

・クーラー音邪念消えずの気功かな

昨年亡くなられた藤沼貴先生の
トルストイ論考集を
ただいま鋭意編集作業中ですが、
これがめちゃくちゃ面白い!
現在の岩波文庫の『戦争と平和』は
藤沼先生の訳です。
A5判686ページ大部の評伝『トルストイ』を著した先生は、
生涯をトルストイの研究、翻訳、
日本への紹介にささげられた方です。
原稿に目を通しながら、
『戦争と平和』『アンナ・カレーニナ』など、
若い日に夢中になって読んだトルストイの人間と作品が、
血の通ったものとしてよみがえってきます。
仕事なのに、
こんなに面白くていいんだろうかと思ってしまいます。
ありがたいことです。
きのう読んでいた原稿に、
アレクサンドル・グリボエードフ
という人が紹介されていました。
帝政ロシア時代の外交官だった人ですが、
子どものときから天才の誉れ高く、
多方面でその才能の発揮を期待されながら、
1829年、
ハーレムから命からがら逃げ出した
アルメニア人少女数名を
ロシア大使館にかくまい、
それに反抗する輩が暴徒と化し大使館に押し入って、
グリボエードフは惨殺されたのち
斬首されたということです。
このとき、グリボエードフ34歳。
天才のグリボエードフは、
任地におもむく直前、
ロシア人でない女性にプロポーズし
結婚したそうですが、
それがただのプライベートな感情からのみでなかったのでは、
と藤沼先生は見ているようです。
未亡人となった女性はとても美しい人で、
グリボエードフ亡き後、
何人もの男性が彼女に言い寄りましたが、
すべて断り、
この世の生を終えた後、
彼女は亡き夫グリボエードフの墓の隣に葬られました。
1954年に岩波文庫から
グリボエードフの『智慧の悲しみ』が
翻訳出版されています。

・雨ばちばちモノトーンの空眺む  野衾