鬼灯

 

 ちろちろと季節忘れぬ虫の声

鬼の灯と書いて、ほおずき。
たしかに赤い提灯に見えないことはありません。
母はよく、
熟した赤い実の中をくりぬき、
小さな円い皮を口に含んでブーブーと鳴らしていました。
文字で音のニュアンスを表せませんが、
一種あきらめに似た悲しさがありました。
母がいつ覚えたのかは分かりません。
わたしが子どもの頃、
一度真似してやってみようとしましたが、
中身を上手くくりぬけず、
ブーブー鳴らしたところで、
ただそれだけのことに思え、
さほど面白くもなさそうですから、
あきらめて他の遊びに移っていったような気がします。
母が中学時代、
友達が高校受験をするのに、
受験しない生徒は早く学校から帰らなければなりませんでした。
受験生は居残って受験勉強です。
そのことを数年前に母から聞きました。
そのときは思いませんでしたが、
鬼灯を鳴らしながら帰宅する母の姿が、
この頃ありありと目に浮かんできます。

写真は、なるちゃん提供。

 鬼灯を鳴らしし母の貧悲し