遠因

 

 杉木立秋の気配を湛えをり

クジラの声を現地録音したCDを、
繰り返し聴いていた時期がありました。
ジャケットを確かめたら、
1991年とありますから、
二十年前ということになります。
憔悴したわたしは、
人間が作り出す音が耳に障って受け付けず、
ただクジラの声を友とし、
クジラの声に慰められて眠りにつきました。
小関与四郎さんのスタジオでクジラの写真を見せていただき、
そのときは気づきませんでしたが、
意識の底の潜行する悲しみと響き合い、
わたしに深く印象付けられたのだったかと、
このごろ思い至りました。
クジラの声は遥か遠くにまで及び、
三頭いれば地球一周するという話を聞いたことがあります。
となれば、写真集の企画は、
わたしが言いだしっぺではありますが、
元をただせば、わたしではないことになります。

 現れて照れて帰るか竈馬