色や色

寒月や狸御殿の華やげり
 りなちゃんが描く絵を見ていて思ったのですが、子どもの描く絵というのは、山を描いても人を描いても動物や身の周りの小物を描いても、自分のこころの投影された山や人や動物や小物であるなぁと。それがとても面白い。
 そう思って考えてみると、りなちゃんだけでなく、部屋に飾ってある子どものころに息子が描いた絵や、わが社のアートディレクターの多聞君が子どものころに描いた絵も、また、見たわけではないけれど、小学校時代に紫の山を描いて先生に頭を殴られたおじさんの絵も、ことばにならないこころが反映されていると見えて楽しい。
冬の月狸も集ふ御殿山

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木田先生

湯気を立て目先三寸ゆばりかな
 哲学者の木田元先生は、わが社の編集長ナイトウの恩師でもある。
 大学院でドゥルーズなどの難しいフランス哲学を学んだ内藤君が保土ヶ谷の山の上にあるマンションの一室を訪ねてきたのは、創業して一年も経たないころだった。すわる場所がなく、仕方がないので、和室の座卓に向かって仕事をしてもらった。あれからもう九年になる。
 木田先生から今年も年賀状をいただいた。最後に「内藤君をよろしくお願いします」と書かれてあった。こわもての哲学者かと思いきや、破顔一笑、眉毛が八の字に落ちて、ころころ笑う先生の姿が目に浮かんだ。熱いものがこみ上げてきた。
冬のしと魂までも抜かれけり
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マスク

ダマッコの湯気につられて踊り出づ
 風邪やインフルエンザの予防のため、マスクを着けることが多くなった。このごろは高機能のものが多く、99.99%ウイルスカットなどと書いてあったりもする。わたしは、リブ・ラボラトリーズ株式会社の抗ウイルスマスクを使用している。陰干しのみで30回の使用が目安だというから、使えばすぐに陰干しし、三枚を交替で使っている。
 ただ問題はある。
 今は、鼻の形状にマスクを合わせるようになっているが、それでも、というか、そのおかげで、寒い場所から暖かい場所へ移ると、どうしてもメガネが曇ってしまう。
 電車に乗ったときが一番困る。混雑している電車の中でこそ、マスクを完全に装着すべきなのに、メガネが曇って周囲が見えないため、マスクをあごの方へずらし、鼻穴を空気にさらしてしまうことになる。これでは何のためにマスクをしているのかわからない。99.99%のウイルスカットも意味がない。
 メガネが曇らないことを謳ったものもあるけれど、今イチこれといったものに当たっていない。
ぽんぽこや浮かれ狸穴冬の月

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油分

ゴロゴロと隣の鈴や風邪の音
 加齢とともにいろいろな問題が生じてくるが、指の油分が減ってくることもそのひとつ。編集者にとって、これは無視できない重大事だ。
 版下を印刷所に渡す前の最終チェックとなると、出力された紙をめくる回数は千回を優に超える。チェック項目が複数あるから、そのたび、最初のページから最後までめくらなければならない。ところが、指の油分が減って、紙がなかなかめくれない。いらつく。ア゛ーーーーッ!!となる。
 つい、「歳はとりたくないものだ」と愚痴を言い、指の油が減ってきたことをぼやくと、編集長ナイトウがすでにそうだという。しかも、家で仕事をしていて、ページをめくるのに、つい指を舐めたら、奥さんから、オジサンくさいからやめなさいと警告を受けたらしい。あはははは… さもありなん!
 以前わが社に勤めていた女性は、母親と二人でスーパーに買い物に行った折、ビニール袋がなかなか開けずに、鼻の油で開こうとしたら、母親に、それはやめなさいとたしなめられたそうだ。
ひかりなにDS教はるおでんかな 496fb9dd9a4d8-090102_1517~0001.jpg

一年の速さ

 年明けの下版迫りし昼寝かな
 大学を出てから三十まで勤めた高校にH先生という、英語の先生がいた。背が高くハンサムで、英国紳士というのはH先生のような雰囲気の人を言うのかな、と思った。激して声を荒げることなく、静かに、論理的に、それでいて生徒のことを思いやる‘格好いい’先生だった。
 一度、H先生の手帳を見せてもらったことがある。見せてもらったというより、H先生が手帳に記入しているのを目にした、というのが正確なところ。
 H先生の書く文字は、活字よりも活字らしいと評判だったが、その活字的文字で手帳は埋め尽くされていた。聞けば、H先生は一日一センチと決め罫線を自分で引いて記入しているとのことだった。
 H先生は、そのことを卒業生の前で話されたこともあった。
 一日一センチ。一年で365cm。十年で3650cm。五十年で18250cm、たったの182メートル50センチに過ぎない…。
 もう一月も半ば。H先生、どうしておられるだろう。
 バカ総理乞食の冬となりにけり

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寒そう!

 冬晴れ間納豆玉子かけご飯
 JR保土ヶ谷駅のホームでときどき見かけるおねえさんがいます。
 上背もあり、けして痩せ過ぎなわけでもありません。緑と赤のチェック柄の厚手のコートを着込み、手袋をしています。そして、わたしが見るのは、そのおねえさんが必ずといっていいほどパンを食べている姿です。餡パンの時もあります。おねえさんは、なんだか寒そうです。
 ホームを歩きながら考えました。どうしてあのおねえさんを見ると寒そうに感じるのだろうか。ちゃんとコートを着て手袋をして、パンまで食べているというのに…。
 もう一度、おねえさんの顔を思い浮かべて見ました。
 そうか。余計なお世話に違いありませんが、おねえさんの目はつぶらです。丸く小っちゃく、しかも少々離れているので、目と目の関係性が乏しく、それぞれが独立してそこにぽつねんと寂しそうに存在しているように見えます。
 おねえさん、昨日もベンチに座りパンを食べていました。
 茶髪らが肩を怒らす成人式

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マニ車

 薄墨を掃いて寒空一番星
 ご近所のひかりちゃんが誕生日だというので、ひかりちゃんはポケモンが好きだから、たしか桜木町のランドマークタワーにポケモンセンターがあったことを思い出し、休日出かけました。
 ビルの案内のおねえさんに訊くと、すぐに教えてくれたので、難なくセンターへたどり着くことはできましたが、世のパパさんママさん子どもたちでごった返し、わたしはほとんど、チベット仏教のあの一度回すと、お経を一回読んだのと同じ功徳が得られるというマニ車よろしく、店内の中央付近でくるくると廻っていたのでした。
 見るに見かねたのか、店の若いおねえさんが「何かお探しですか?」と声をかけてくれました。ひかりちゃんに電話をし、やっとポケモンカードを手に入れることができました。
 店の外へ出たときの充実感というか達成感というか、このごろ味わったことのないぐらいのものがありました。喜んでもらえて良かった!
 年の瀬や君枝先生と握手せり

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