木田先生

湯気を立て目先三寸ゆばりかな
 哲学者の木田元先生は、わが社の編集長ナイトウの恩師でもある。
 大学院でドゥルーズなどの難しいフランス哲学を学んだ内藤君が保土ヶ谷の山の上にあるマンションの一室を訪ねてきたのは、創業して一年も経たないころだった。すわる場所がなく、仕方がないので、和室の座卓に向かって仕事をしてもらった。あれからもう九年になる。
 木田先生から今年も年賀状をいただいた。最後に「内藤君をよろしくお願いします」と書かれてあった。こわもての哲学者かと思いきや、破顔一笑、眉毛が八の字に落ちて、ころころ笑う先生の姿が目に浮かんだ。熱いものがこみ上げてきた。
冬のしと魂までも抜かれけり
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