さくら

 あるきたや親しき人と花万朶
 三月に入り、そろそろ桜の話題が増えはじめる頃です。この季節になると必ず思い出すことがあります。
 大学一年生のとき、親しい仲間と学内の野球大会に出場しました。9人そろえば、だれでも登録できましたし、優勝、準優勝ともなると、すばらしい景品や酒がもらえるということで、喜び勇んで出場。静岡出身のS君がピッチャー。わたしはキャッチャーでした。順当に勝ち進み、一年生チームながら、準優勝してしまいました。
 たくさんの景品と日本酒をもらい、桜が満開の公園で飲んで騒いでの大宴会になりました。
 酔っ払って、目が覚めると、朝でした。もう、みんな帰っており、残っているのは、わたしとW君でした。ああいう時の気分というのは最悪です。淋しいような、悲しいような、切ないような、侘しいような、みすぼらしいような、泥水の中から現れたどぶネズミのような、およそ、ありとあらゆる否定的な感情が複雑に絡まってあふれてくるようです。W君は、眼鏡がない、眼鏡を落としたと大騒ぎ。二人で公園の端にある交番までとぼとぼと歩きました。
 おまわりさんが、開口一番、「どうしたの、その顔!?」。え!? あ!? わたしもW君も二日酔いで頭がボーッとしていて気がつきませんでしたが、お互いに顔を見合わせ、吹き出してしまいました。顔中、煤だらけなのです。騒いで、新聞か何かを燃やし、消した後、その上に突っ伏して眠ったのでしょう。おまわりさんに指摘され、黒い顔が紅く染まりました。「あんまり呑み過ぎないように!」。「はい…」
 結局、W君の眼鏡は、わたしたちのグループの唯一の女性であるYさんが持って帰ってくれていました。
 覚めてのち腹に虚(うろ)あり花万朶

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